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第27話
ホームルームが終わり、僕は職員室に行かなければならない。幾ら有馬先生が相手だとしても何となく気分が沈む。
「これあげるから頑張ってきな」
「また飴?」
「これ美味しいからオススメ」
口に入れられたイチゴ味の飴は、確かに美味しかった。これで少しだけ元気になったかもしれない。
「春海くん、おいで」
先生が僕を呼ぶ。苗字で呼ばれるのは変な感じだなぁ。
家では名前で呼んで貰ってるし、僕もうっかり「朔夜さん」と呼ばないようにしないと。学校ではきちんと「先生」と呼ばないといけない。
生徒指導室に連れてこられ、化粧落としシートを1枚渡される。 これで化粧を落とせってことか。
「唇、綺麗だね」
「え?うん、色が綺麗だよね」
「キスしたくなる」
「うん。……え??」
つい流れで「うん」と言ってしまったが、先生今なんて言った!?
き、キス!?なんでキスしたくなるの!?
あわわわ、とパニックになっていると、いつの間にか唇を奪われていた。
あ、ダメだったのに……。
今の僕の唇は……。
「なんかベタベタしてる……」
「だからしたくなかったのに……。てか、ここ学校だよ!誰かに見られてたら……!」
「大丈夫。鍵も掛けたし、カーテンも閉めてるし、誰も見てないよ」
悪戯っぽく笑う先生は、何を考えているのか分からない。なんで学校でキスなんか……。
僕とキスするの嫌じゃないのかな……。
シートでグロスを落とすと唇がさっぱりした感じがする。もう一生グロスなんて付けたくない。女の子はいつもあんなベタベタしたやつ付けてるのかな。大変だ……。
あとはクマを隠している部分だけなのだが。
「クマの所は落としたくないな……。今日はクマが酷いでしょ……?」
「うーん、確かに酷いけど……」
やっぱりダメ、かな……?
でもこんな顔、誰にも見られたくない。蛍ちゃんが上手に隠してくれたから、お化粧で隠してるとは思えないくらい自然な仕上がりになっている。
「仕方ないなぁ。今日だけだからね」
「うん……!ありがとう!」
「あと……」
よかった、やっぱり先生は優しい。それほど僕のクマが酷かったのかもしれないけれど。
そっと先生の手が僕の頬に触れる。
「口に何か入ってるでしょ」
「あ、うん。蛍ちゃんから飴貰った」
「もう授業始まるから食べちゃダメだよ」
「はーい」
美味しい飴だったけど、残念だけどティッシュに出すかしかないかな……。
でもティッシュ持ってないや.......。勿体ないから噛んじゃおう。
だけど先生の手は僕の頬に触れたままで、まだ何かあるの?と聞こうとした時。
ちゅー、とまたキスをされた。
ま、また!?もういいじゃん!なんで!?
「んぁっ!せん、せ!もういいって! んっ!?」
文句を言ってやろうと口を開いたのが間違いだった。
なんと今度は先生の舌も口内に侵入してきたではないか!
!?!?!?!?!?!?
くちゅ、と水音を立てて先生が僕の口内を犯す。歯列をなぞったり、上顎を撫でたりされて、初めての深いキスに腰が抜けそうになる。
しかもなんか慣れてない!?先生はこんないやらしいキスをした事があるのだろうか。
「ふぅ……う、ぁ……」
触れるだけのキスとは違って、なんか……気持ちいい、なんて思ってしまう。先生がキス上手いのかもしれない。
奥で縮こまっている僕の舌を上手に絡めとって、先生の舌と交わる。飲みきれない唾液が顎を伝い落ちていく。
僕と先生の舌が……!
き、キスってこんな事するの!?この前のドラマでキスが長かったのってこんな事してたからなの!?
ペロッと舐めていた飴を先生の舌で取られ、唇が離れた。その頃にはもうクタクタになっていて、完全に先生に身を預けていた。支えて貰わないと立って居られない。
「甘いね」
「な、んで、舌……」
「飴を取ってあげようと思って」
ば、ば、……バカじゃないの!?もっと他にも取る方法あったじゃん!?なんで直接舌で取りに来たんだよ!!
「そんなに嫌だった?」
ふっ、と微笑みながらそんな意地悪な質問をされる。
嫌だったらとっくに突き放して逃げてるし! 嫌じゃなかったのがまた問題なのだ。
「嫌……じゃないけどさ……」
「じゃあもっとしていいってこと?」
「だ、だめ!今日の分は終わりなの!」
「明日ならまたしていいんだ?」
「うっ……」
しまった、言葉選びを間違えた。
これなら一日一回はしていいよって意味になっちゃう……。
訂正しようとしたが、チャイムが鳴ってしまった為急いで教室に戻らないといけない。
「やばい!遅れる!!次なんの授業だっけ!?」
「次は確か数学だったはず。早く行かないとヤバいんじゃない?」
それは本当にやばい。数学の吉野先生はとても怖い。昭和のおじさんといった風貌で顔が厳ついし、声も低くて僕はとても怖いと思っている。怒ったら怖いんだろうな……。
怒られたくない、という一心でマッハで教室まで戻ったのだった。
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