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第28話

マッハで戻ってきたものの、数学の吉野はまだ来ていなかった。 あっぶなー!セーフセーフ!! 「おかえりー!遅かったね!」 「ま、まぁね……」 ぜーはーぜーはーしながら自分の席に着くと、前の席の千花ちゃんが話しかけて来る。 息切れしている僕を見て、千花ちゃんはクスクス笑う。なんで笑ってんだよ? 「一限自習なのに走って来たんだ」 「え!?自習!?」 「ホームルームで有馬先生が言ってたじゃん。聞いてなかったの?」 「はい全く」 ホームルームね……。 確か先生に前髪が可愛いと褒められて、それからずっとその余韻に浸っていたな。あと今日の先生もめちゃくちゃカッコイイ!なんて思って見蕩れていたらいつの間にかホームルームが終わっていた。 大体理解した千花ちゃんは「本当に先生バカだよねー」なんて呆れられた。 「ね、千花ちゃん。もしキスされたらどうする……?」 「え、誰に? キスされたの?」 「いや、僕じゃないけど……、知り合いで、会うと毎回キスしてくる人がいるんだって。どうすればいいんだろうって相談されたから……」 はい、まぁ嘘なんですけどね。僕の話なんですけどね。そこは名前を伏せてもいいだろう。バレたら色々面倒だし。 千花ちゃんは少しの間僕を見つめて、怪しい、と言うような顔をしていたが無視した。 平常心、平常心……!バレてない! 「好きなんじゃない?」 「でもさ、その人すごくかっこいいんだよ?遊びなんじゃ……」 「どうだろう。まぁ誰彼構わずキスする人はたまに居るけど。本命としかしないって人もいるよ」 結局どっちなんだろう。 でも先生は僕のことが好きだとは思わない。最近距離が近いのは、弟感覚に近いようなものだと思う。キスするのは、僕の反応をみて楽しんでいるから。歳の離れた兄弟とかならキスもするのかもしれない。僕は一人っ子だからよく分かんないけど。 「もう告っちゃえばいいのに。先生も律のこと好きだと思うよ」 「え!?それはない!」 「なんで。だって先生、律にだけ甘いし明らかに他の生徒とは態度違うもーん」 「そ、そんな事ないよ!?先生はきっと千花ちゃんのことも好きだよ!」 「そーかな」 そうだよ! 先生が僕のことを好きになるなんてナイナイ! だって僕、男だし。女の子みたいに可愛いくないし、胸だってないし。 こんな僕を好きになってくれる訳ない。 「まー、頑張りなよ。律さん」 「うん……。って、僕じゃなくてー!」 「はいはい。友達の相談だったね。律じゃなくて」 もう若干バレているような気がするが、そこは知らないふりしよう。まぁ千花ちゃんは誰かに言いふらすなんてことはしないだろうけど。 悩みを聞いてもらって、心のモヤモヤが少し無くなった気がする。お詫びに今日のお弁当のおかず、少しだけ千花ちゃんに分けてあげよう。前に食べたいと言っていた卵焼きをあげることにした。

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