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第40話
「ただいま.......あれ?」
帰ってみると部屋の中は真っ暗だった。
おかしいな。今日は律が晩御飯作るって張り切ってたのに。
不思議に思いリビングの電気を付けると、ソファの上で布団を被って丸まっている物体を見つけた。
「律、ただいま。どうした?体調悪い?」
「.......」
俺の呼びかけに鼻を啜るだけで何の反応もしてくれない。いつもなら嬉しさを全面に出して寄ってきてくれるのに。
泣いているようだし、何かあったんだろう。
部屋中にカレーのいい匂いが漂っている。
ご飯は作ってくれたみたいだけど.......。
「たい焼き.......」
机の上には何故かお皿に乗った一匹のたい焼きが。これを食べろということか?
キッチンに行くと、きちんと洗い物もされているし、カレーもきちんと作っているではないか。
泣く原因がよく分からない。
「律、ご飯作ってくれてありがとう。一緒に食べよう?」
「.......だめ、失敗したから」
「失敗?あれが?」
どこに失敗の要素があるというのだろう。上手に出来ていると思うけど。
「.......焦げたもん、底のほう.......」
「焦がすくらい俺もよくやるよ?全然失敗じゃないよ」
「.......」
カレーはルーを入れたらこまめに混ぜないと焦げてしまう。俺も初めてカレーを作った時は知らなくて焦がしてしまったことがある。
律は失敗だと言うけれど、そこまで気にすることでは無い。
律が作ったものだ、焦げていようと失敗していようと全部食べる。それくらい嬉しいのだ。
ご飯をよそってカレーをかける。
一口食べると普通のカレーのはずなのに、いつもより美味しく感じる。
焦げた味はないし、本当に底だけ焦げただけなのだろう。
「美味しい。作ってくれてありがとう」
「!?食べたの!?美味しくないでしょ!?」
「美味しいよ。今まで食べたカレーで一番美味しい」
「う、嘘だ.......」
俺がカレーを食べていると知り、ソファから飛び起きてびっくりした顔で俺を見ている。
そんなにびっくりしなくても。 だいぶ泣いたのか、目元が赤くなっている。後で冷やしてあげよう。
カレーを食べる姿を凝視され、とても食べにくい。まぁ自分が作ったものを食べてもらうのは緊張するし、気にはなるけれど.......。
「あーんして」
「あーん?」
「どう?美味しいでしょ」
「ん、.......普通の味.......」
そんなに気になるなら食べてみればいい。
そう言えば、今日の昼休みもこんな事あったな。あーんではなくて、俺が一方的に律のを食べたという形だけど。
関節キスだけで顔を真っ赤にした律を思い出して口元が緩む。いつも関節キスより深いキスをしているのに、そこ恥ずかしがるんだな。分かりやすくて可愛い。
普通の味だと分かり、いつものように笑ってくれて安心する。
律は泣き顔より、笑顔が一番似合う。
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