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第57話
スーパーに着き、カゴを持とうとしたのに取り上げられてしまった。そこまでひ弱じゃないんだけど!
「今日は何が食べたい?」
「んー、お昼にハンバーグ食べたからさっぱりしたのがいいかなぁ」
「じゃあ魚は?」
「魚がいい!あ、しらすはダメだよ!」
魚は好きだ。しらす以外は。しらすに限らず小魚は苦手だ。これを言うと変だと言われることが多いが冷静に考えて見て欲しい。小魚たちはそのまま食べるんだ、それって小魚の脳や内蔵も食べてるって事になる。そう考えると何だか食べられなくなってしまった。
「しらす以外ね。分かったよ」
「朔夜さんは嫌いな食べ物ないの?」
「まぁ大体は食べれるけど、強いて言うならシメジかな。胞子の所が苦手。出されたら食べるけど好んでは食べない」
たくさんお料理するし、嫌いな食べ物は無いのだと勝手に思っていた。
なるほど、朔夜さんはシメジが苦手っと。僕の脳内メモ帳にメモしておいた。
確かに朔夜さんの作るお料理の中にシメジが入っていた事はないかも。エノキとかエリンギは見た事あるから、本当にシメジだけが苦手なんだなぁ。
朔夜さんは少し完璧すぎる所があるから、こう言った人間らしい所も見られて安心した。
「じゃあ今日は、焼き鮭、カボチャの煮物、お味噌汁で大丈夫?」
「うん!」
少し胃もたれしていたが、朔夜さんの作る料理を想像したらお腹が空いてきた。
最近は朔夜さんのおかげでよく食べれるようになってきた。前までは胃もたれしてると1日ご飯食べない日とかザラにあったし。
まさに朔夜さんに体を作られているなと実感する。
お会計を済ませ、すっかり暗くなった道を歩く。買い物袋を持とうとしたのに、またしても取り上げられてしまった。ひ弱じゃないのに!このくらい持てるのに!
「そういえば、律なにか付けてる?」
「ん? あぁ、香水かな? 両腕に付けてるよ!違う匂いだけど」
香水キツくて嫌だったのかな.......。両腕違う匂いだから香りが喧嘩してるのかも。そりゃあ甘い香りとスパイシーな香りだから喧嘩するだろう。混じりあっていい匂いにはきっとならないと思う。
パーカーの袖を捲り、朔夜さんに見せるとそのまま腕を捕まれ匂いを嗅がれた。
「ほんとだ。匂いが違う」
「朔夜さんはどっちが好き?」
「俺は.......」
こっち、とバニラの香りの手を握られた。
やっぱりそうか。僕もこの匂いが一番好きだ。スパイシーな香りよりも、甘い香りの方が落ち着く。
.......で、いつまで手握ってくれるんだろう。離してくれる気配がないけれど。
「あの、朔夜さん? 手.......」
「嫌だった?」
「い、嫌とかじゃなくて.......。だって見られたら.......」
手を握られるのは嬉しいに決まってるだろ!!逆に好きな人に手を握られて嫌だと思う人いないだろ!
問題はそこではない。だって僕たちは男だから。男同士で手を繋いでいるところを見られたら、教師をしている朔夜さんの顔に泥を塗ることになる。ましてや教え子だ。絶対にバレてはいけない。
「暗いから見えないよ。俺が繋ぎたいから繋いでる、それじゃダメ?」
「.......ズルいよ、それ.......」
暗くて良かった。今顔真っ赤だもん。
朔夜さんの握る手が少し強くなって、僕も握り返した。
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