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第60話

「はい、メイク落としシート」 「ありがとう」 生徒指導室に連行され、メイク落としシートを渡される。承諾したのは僕だが納得いかないぞ。蛍ちゃんも一緒に怒られればいいのに.......。 しばし沈黙が流れる。 あれ、いつもどんな会話してたっけ.......?こんなに気まづかったけ.......? ムリムリ!この沈黙耐えられない!早くメイク落として戻ろう! 「律、待って」 「な、なに.......?」 「じっとしてて」 素早くメイクを落として教室に戻ろうと思っていたのに呼び止められて振り返った。すぐの距離に朔夜さんの顔があって、ぎゅっと目を瞑った。 髪に手が触れて「よし」という声が頭上から聞こえた。 「ゴミついてた」 「あ、ありがと.......」 キスされるのかと思っちゃったじゃないか!! 昼間からしかも学校でキスされる想像をしてしまい自分が恥ずかしくなる。 赤くなった頬を手で覆うように隠すと、その上から大きな手が重なってきた。 「キスされると思ったでしょ」 「う、思ってないし.......」 「嘘つけ。顔赤いしバレバレ。してあげようか?」 バレていたみたいで、朔夜さんの顔が近くなる。 あっ、ちょっと待て。白石先生と付き合っているのなら、キスしたら不味いんじゃないか!?男同士だが浮気になるんじゃ!? それはダメだ!!2人が付き合ってるのは気に入らないが、自らが浮気相手になるのはもっと嫌だ。 近づく朔夜さんの顔を押し退け、消え入りそうな声で注意した。 「誰とでもキスするの、やめたほうがいい.......」 「え?」 「教室戻る!!」 「律!?」 果たして注意したことになっているのかは謎だ。 だけど彼女がいるのに僕とキスするのは間違っている。 僕だってキスしたいのに.......。なんで相手が僕じゃないんだろう。 叶うはずのない恋に期待して、失恋して.......。もし僕が女の子だったら恋人になれたのかな.......なんて。

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