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第64話
帰るのが遅くなってしまったからと、先生が千花ちゃんを最寄り駅まで送ると言うので一応僕も乗車した。同じ家に帰ることは内緒なので、先に千花ちゃんを送ってから僕を送り届けるという設定だ。
後部座席に千花ちゃんと座り、やけに興奮して肘でお腹を突かれる。痛いからやめて欲しい。
「運転する先生もかっこいいね!絵になるね!」
「わかる、すごくわかる」
まぁ知ってるけどね。僕も何回か乗ってるしその度にかっこいいと思ってる。普段からかっこいい人が、車を運転する姿がかっこ悪い訳がない!
千花ちゃんがぐるっと車の中を見渡す。
「特に女物は見当たらないね」
「そんなの分かるの?」
「分かるよ、私女だし」
「そうだった」
失礼な!とバチンと背中を叩かれた。すごく痛い。この力は女の子じゃないって.......。
馴染みすぎててつい女の子って事を忘れちゃうんだよね.......。
千花ちゃん曰く、助手席の椅子の位置が前になってると女の子を乗せた可能性大らしい。
なるほどな.......って、変な事教えないで欲しい。これから乗る時気にするようになるじゃん!
「須藤さん、着いたよ」
「あ、ありがとうございます先生!律もまた明日ね!バイバーイ!」
まだ叩かれた所がヒリヒリと痛む。ヒラヒラと手を振って、帰る後ろ姿を見送る。
暗いけど大丈夫かな.......。先生が家まで送ると言ったけど「駅に自転車止めてるし、駅から5分ぐらいで着くから」と断っていた。結構しっかりしている千花ちゃんだが、一応女の子なのだから気をつけなければならない。
「律、大丈夫?疲れたでしょ」
「大丈夫だよ!千花ちゃんも一緒に居てくれたから、そんなに怖くなかったし」
「そう.......。早く帰って夕飯の支度するね」
「うん」
朔夜さんが気を使ってくれたのか心配してくれた。確かに疲れはしたが、千花ちゃんも居たし平気だ。
隣町なので帰るのにそれ程時間は掛からなかった。駐車場に車を停め、夕飯のメニューは何にするか話しながらエレベーターに乗った。
玄関を開けて部屋に入った途端、後ろから抱き締められてびっくりした。
「さ、朔夜さん?」
「ごめん、もう少しこのままがいい」
「う、うん.......」
どうしたんだろう突然.......。何か悩みでもあるのだろうか。 僕を抱きしめて少しでも心が軽くなるのなら、いつでも僕を使って欲しい。
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