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第81話
出会ったのは今年の春。俺も白石先生も新しく赴任した先での出会いだった。
第一印象は、俺の苦手なタイプの人。
昔から顔が良いだのイケメンだの言われ、自分自身そう思ったことはないが自然と女性が集まった。
彼女もそうだった。俺の顔が目当ての女性。
正直ウンザリだった。
そんな頃、律と出会った。可愛らしいあどけない男の子、だけど目が離せない魅力があった。母親の友人から頼まれ引き受けただけの、ただの同居人。だけど、どんどん律に惹かれて.......気づけば好きになっていた。
初めて本気で人を好きになり、毎日が楽しいと思えるようになった中、白石先生からの猛烈なアプローチが始まった。
毎日のように食事に誘われ、家に帰れば何件ものメッセージが届く。用があるメッセージかと思いきや「今何していますか?」「今から会いたいです」などつまらないメッセージばかり。正直ブロックしてやりたいと思ったが、仕事上無理だと判断した。
律が白石先生に呼び出されたあの日から、そのアプローチは増した。
学校の駐車場で俺を待っていたり、家に着いてこようとしたり。
挙句の果てには指輪まで用意され「結婚しましょう!」と言われてさすがに引いた。
埒が明かないし、これ以上律に危害が加わるのは許せないと思い空き教室を使って話し合いをした。
俺には好きな人がいること、白石先生の事は全く興味がないこと、これ以上プライベートに踏み込まないで欲しいこと、全て話した。
白石先生は分かったと言ってくれたが、最後に
「キスしてくれたら諦めます」
こう言った。
抱きついてきて、目を瞑っている。ぶん殴ってやろうかと思ったくらいには嫌だった。
だけど、キスすれば諦めて貰える.......そう思い顔を近づけた瞬間、廊下でドテーン!!とすごい音が聞こえてきた。
その人物の正体が律だと知った時、今自分がやろうとしたことは最低な行為なんだと気付いた。
今日も食事に誘われたが、それどころではない。
家に帰っても律はいない、電話しても出ない。探し回って見つけたのは、泣きながら公園のベンチに座る俺の好きな人。
傷つけてしまった。体は冷えて、ボロボロと涙を零しながら「ごめんなさい」と謝られた。
謝らないといけないのは俺だ。
きちんと気持ちを伝えよう、今じゃないとダメだ、そう思い律をここに連れてきたのだ。
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