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第119話

しばらくすると、玄関が開き朔夜さんが帰ってきた。 お出迎えしに行くと、ぎゅーっと抱きしめられて、僕も背中に手を回す。はぁ、朔夜さん大好き.......。 なんて思っていると、またガチャっと玄関の扉が開いた。 「ごめん、ノート忘れちゃった.......、え.......」 「ありゃ、見つかっちゃった」 「千花ちゃん、あの.......」 「なんで有馬先生がいるの!?なんで抱き合ってるの!?」 「お、落ち着いて.......!」 朔夜さんは余裕そうに笑っているが、僕は焦っていた。先生と生徒が同居してるなんて知られたらどうなるんだろうとか、しかも抱き合ってる所を見られてしまって更に慌てる。 状況が理解できずパニックになっている千花ちゃんに、僕たちのことを説明する。 「なるほど。律の同居人は有馬先生ってことね。何この漫画みたいな展開、最高かよ」 また家に上がってもらい、ソファに座り話す。 夕飯の支度をすると言って、朔夜さんはキッチンにいる。 「この事、みんなには秘密にしてて.......?」 「分かってるよ!言うわけない!でも律」 グイッと体を寄せられ、キッチンにいる朔夜さんに聞こえないようにコソコソに話す。 「超ラッキーじゃん! 大好きな先生と一つ屋根の下なんて!」 「僕も初めは夢かと思った!すごく嬉しかったし!」 あの日の事は忘れない。まさか一目惚れした人が同居人だったなんて。こんな偶然ない。もしかしたら本当に運命なのかも.......なんてロマンチックな事を考えてしまう。 「あの美味しい卵焼きを作っていたのは有馬先生だったのか.......!あの綺麗なお弁当も先生が作ったんだ!」 「そうだよ」 千花ちゃんが愛してやまないあの卵焼きは朔夜さんが作っている。「ここに来たら食べれる訳か.......」とボソッと言っていたが、いつもお弁当と別で卵焼きも持っていくので毎日食べているではないか。 このままでは千花ちゃんの体の半分が卵焼きになってしまうのでは? 「須藤さんご飯食べてく?」 「オカンかよ!食べます!」 キッチンから朔夜さんが顔を覗かせた。 「なんか変な感じだね.......」とちょっと複雑そうな顔をする千花ちゃん。それはそうだ、学校では先生で、ここでは家事をこなすただのイケメンなのだ。

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