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オメガのおじさま6
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「じゃあ、ありがとうございました! 今度のみに行きましょうね!」
「うん、また来週」
「さようなら」
いつ振りだろうか。さようならと言い合って別れるなんて、子どもが小学生の時に子どもの友だちに言ったっきりだった気がする。けれどその時と違って、胸のあたりがほんのり暖かくなるのを感じた。
駅の方向へ向かって歩き出す。今日の晩ご飯はなんだろうか、と楽しみに歩き出すと、すぐ横に車が付けてきた。見慣れた車だった。プーッと、警笛が鳴らされる。思わずあきれてしまって、運転席のガラス窓を軽くノックした。
ウィンドウが下がる。顔を近づけて、わざと彼に少し怒った表情をした。彼は、僕のパートナーだ。
「目立つし、近所迷惑だろ」
「迎えに来たのに、無視するお前が悪い」
「たく、……お迎え、ありがとう」
そう言われてしまえば何も言えない。
素直に礼を言うと、うなじがじわりと熱くなるのを感じた。素直なのは慣れていないのだ。もう50半ばだというのに、彼には感謝の一つを言うのにも恥じらいを覚えてしまう。
彼は喉の奥でクク、と笑って、運転席から片腕を伸ばして僕の頭をぐいと引き寄せた。
強引に、唇を重ねられる。舌を入れられそうになる前に、突き飛ばした。
「会社の前だし! そもそもいくつになると…」
「マーキングだ。他のアルファの匂いがしたからな」
「そういう問題か!」
「そういう問題だ。ほら、早く後ろに乗りな。運んでってやるから」
急かされるとペースを崩されるのは昔からのことだ。怒るのを諦めてまた素直に後部座席に乗った。
カシミヤのコートが型崩れしないように、そっと脱いで傍らに置く。毛艶が見事で、平の自分が着て良いものではない気がするけれど、せめて手入れだけはしっかりしていた。毛の方向に沿って手を這わせると、夜の光にカシミヤの照りが美しく反射した。
彼は僕がシートベルトをしたのを確認すると、なめらかに発進させる。都市の夜景がきらめくようだった。
「今日はどうだった。また変ないちゃもんを付けられたりしたか」
「……それより、今日は嬉しいことがあった」
「え、なにがあったんだ」
そんなに驚くか? とからかうように笑ってやる。
「教えてやらない」
今日のことばかりは、今まで何でも話してきた彼にも言わない。
決して恥ずかしいからとかではなく、単純に、その方が面白い。
藤村くんのそばにしばらくいたから、今の僕は彼以外の、他のアルファの匂いがするのだろう。それでしかも、今日のことを秘密にしていたらそのうち多分小爆発する。それを見るのが密かに嬉しかったりする。
―――悋気を起こす彼を見ていると、いつも僕を守ろうとしてくれる彼が、急にかわいらしく見えて、愛おしくなる、なんて言いません。
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