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忘れ物4

 私の追加注文で頼んで貰ったデザートは、抹茶のアイス付きのパイケーキ。黒い皿の上にくるりと置かれた、エスプーマしたクリームはちょっとチーズっぽくて、口当たりが優しい。抹茶アイスと一緒に食べると、きゅんきゅんくる味だ。 「美味しいですね!」 「ええ、良い味です」  さっきと違って打てば響く答えに、いっそう味が深くなる気がした。そう、こういうのが嬉しくって、一緒にご飯を食べるのが好きだったのだ。  おじさまは私が頬を緩めると、ほっとしたように目元を緩めた。 「あまり外食をしないので、近くにこんな美味しい店があるとは知りませんでした」 「私もです。同僚の評判がよかったところをメモしておくんですが、初めて役立ちました」 「研究熱心で素晴らしい」  まるで子どもか孫を見るような目だ。歳不相応にはしゃいでしまってかなり恥ずかしいのだけど、まぁそれでもいいかと少しペースを落として食べる。 「斎木さん、さっきのお泊まりの話の続きを聞いても良いですか?」 「ああ、忘れるところでした」  そう言ってはいるものの、私が言い出さなかったらおじさまから口を開いていたんだろうとは容易に想像できる。気遣いのできる人だ。  おじさまは、デザートフォークでタルトタタンの半分をくいっと切って、少し悩むように口を開き、目をケーキ皿に置いたまま 「……満島に、プロポーズをされまして」 「えっ」  おじさまは、少し恥ずかしげに左手の薬指を撫でて、まなじりを下げる。 「ここに指輪を嵌めないか、と」 「そんなシンプルなことだったんですか?」  フォークを右手に握り直して、おじさまは、愛咬痕の消えたうなじを軽く掻いた。何気ない仕草だけれど、少し寂しげで、心許なさが透けて見えるようだった。やっぱり強制じゃないにしても番を解消されて、物足りなさみたいなものがあるんだろうか。 「まぁ。彼はロマンチストなので、色々と言っていました。最初から最後の発情期まで共に過ごせるなんて、そんなアルファは俺以外にいないとか……あと、さんざん好きだ好きだと、バカのひとつ覚えのように」  言い方がおじさまにしてはとげとげしい。茶化すような色が声に混じっていて、何となく私は、おじさまが本当は嬉しかったんだな、と言うのを察した。照れ隠しのとげとげしさだ。だから私は、そのままおじさまに問いかけた。 「嬉しくなかったんですか?」  おじさまは、笑った。 「もちろん、とても嬉しかったのです、その時は。けれどそう言われた一瞬あと、僕は、…彼と添い遂げるつもりはなかったと言うのを思い出して」 「……それは…なぜ、と聞いて大丈夫ですか?」  センシティブな話題なだけに、アイスを口に運びながらも、何気ない顔をしながらも、少しだけ気を遣った。おじさまは良いですよ、と口許を和らげた。  いや、でも、だって、前提として二人はご両親に無理矢理引き合わせられた90年代によくあったいわゆる、強制番で、今は同居している恋人? なのだ。で、それに加えて、二人の間には三人のお子さんが居て、つまり番の契約のみを交わしてある、社会的には宙ぶらりの事実婚状態であって――ああもう。わけがわからない。  そんな私の小さい混乱を見通したように、何度か頷いて 「また古い話になりますが、良いですか?」  もちろん私は、こくこく頷くだけだった。

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