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結婚相手と、番の関係と、1
いつからだっただろう、とふと気づいた。
たとえば、発情期なのに、離れていく体温とか、さらに少なくなったあったかい言葉とか。少し前までは、終わってもずっとそばにいてくれたのに、もうしばらく、同じ布団で寝てない気がする。少なくとも一年前までは、セックスが終わっても、落ち着くまで背中を撫でてくれていたのに、もう最近は、したらおしまいとばかりにシャワーに行ってしまう。
嫌な考えがよぎる。かぶりをふった。
違う、努さんが浮気なんかするはずがない。浮気するような人じゃない。
彼は、言葉こそ冷たい時があるけれど、本当はとても優しくて、ずっと年下の俺を、掌中の珠のように大事にしてくれる人だ。
手を伸ばした。結婚はしてても、番じゃない俺にとっては、彼のささやかな愛情だけが、ほとんど唯一の支えだった。
掴んだ腕は、案外と細かった。
「行かないでよ。まだおわってないよ」
逡巡したように、努さんは止まった。その一瞬あと、努さんは俺の腕を掴み返して、吐き捨てるようにこう告げた。
「発情期くらい、耐えろよ。それくらい我慢できるだろ」
そう言って俺の手を乱暴に振り払って行ってしまった。
その言葉が、今の俺には受け止められなくって、呆然としていた。まだいつもより熱い体を抱えながら、気づいた時にはもう、努さんの姿はなかった。
発情期って、我慢できるものなんだ。そうやって思ったら、恥ずかしさでカアッと顔が熱くなり、涙が止まらなくなった。そうやって、下唇を噛んでいる間にも、体が火照って、努さんを追いかけたくて仕方がない。
終わったばかりでしっとりしたシーツを掴む。そこに残る努さんのあったかさを思い出して、もう半年くらい抱きしめられていないのを思い出す。
少しずつ淡白になり出して、前の発情期は仕事が残ってるって行って、治ってないうちに出て行ってしまった。まるで、義務からか逃げるようだった。
仕事っていって、また行ってしまうのだろうか。
それとも、本当に、浮気してる相手に入れあげていて、俺へ向けるものは何もなくなってしまったんだろうか。
むしろいっそ、恨まれているのかも。こんなトラウマ持ちで内弁慶のオメガなんて、めちゃくちゃめんどくさい存在だ。ただ家の名前と父親がやたら豪華で、だからやたら捨てづらいのが余計にめんどくさくって、せめてもの抵抗で俺が離れてくれるのを待ってるのかもしれない。
嫌な考えが、まるでシャボン玉のように膨らんでく。シャボン玉と違うのは、割ることもできないし、飛んでくこともできず、ただ心の中に溜まっていくことだ。
気づけば、抑制剤を足に刺して、努さんが浴室から出る前に、逃げるように家を飛び出していた。
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