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大切の仕方 1

「はぁ〜……お疲れ様です」 「お疲れ様、春さんも」  おじさまと一緒に無言で会社を出て、第一声がそれだった。お互いにぐったりしていて、一週間頑張りましたね、と褒め合った。今日は30分で終わらせられたけれど、他の部署との調整で、ここのところ残業が2時間くらいになってしまっていていたのだ。  普段なら外に出てすぐに満島さん——えっと、おじさまの旦那さんの満島彰さんがそこでさよならになる。しかし今日は、いつものシルバーの車がどこにもなく、おじさまも当然のように、私と同じ方向へ足を向けた。ついつい首をひねる。 「あれ、信治さんも、今日は駅ですか?」 「はい。今日はちょっと、息子のところで泊めてもらうことになっていて」 「息子さんって……」 「ええと、三人目の子どもですね。結婚して別で住んでいて」  そうなんですか、とうなずく。息子と聞いて、どんな人なんだろうと興味が湧いた。おじさまをそのまま若くしたような、年に合わないような思慮深さを持った人、だったりするんだろうか。 「20なんですけどね。まだ根っこから幼いというか」 「私より年下なんですね」  驚く私に、ええ、と頷く。おじさまは、楽しそうだった。 「僕が32歳の時の子どもなので、まだ若いんです」 「へぇ…」  私はまだ結婚する気がないというか、機会がなくって結婚していない。大昔は、昔は大人になればみんな自動的にお嫁さんになってお母さんになると思っていたけれど、年齢が上がるにつれ、結婚するってすごいことなんだなとわかった。もちろん、おじさまみたいに選択肢がなくって結婚しか道がない、オメガの友達もいたけれど。  それでも20歳と言えばまだ大学生の楽しい時だ。第二の性もわからないけれど、それがちょっとだけ不思議だった。でも、いくらおじさまが許容してくれているとはいえ、人の事情に首を突っ込みすぎるのはおかしい気がしたから言わなかった。  口を開けずにいると、おじさまから笑いかけてくれた。 「春さんが20歳のころ、何をやってましたか? 以前大学に通っていたとは聞いた気がしますが」 「そうですね…将来何やろうかなとか、なんか、…あーそう、心理学の用語でそのまんま『モラトリアム』って、そんな感じの大二でしたね」 「なるほど。うちの子も将来についてはかなり悩んでましたね」  おじさまは腕時計を見て時間を確認すると、私に向かって笑いかけてくれた。 「そういえば、最近、近くで縁日をやってるみたいですよ。行ってみますか?」 「よろこんで!」

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