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大切の仕方 2

「お母さん! なんでうちなの!」  普段使わない『お母さん』なんて言葉を使って、キャンキャン騒ぐ晴也を、軽く笑って流す。 「ごめんって。今日はお父さんが出張で、家に帰る意味もないし、ちょっと前に言っておいただろう?」 「ちょっと前って一昨日じゃん! もう!」  鞄を奪われた。口では怒りながらも、口元が少し緩んでいるのが、本心を表している。晴也は内弁慶なところがあるから、家族だから甘えて少しツンケンしてると思えば、そこまで嫌だとは思わない。 「努さん、母さんほんとにきたよ」 「ごめんね、本当に」 「お久しぶりです。いつでもきてくださって構わないんですよ」  晴也が意気揚々と扉を開けると、努くんが立って迎えてくれていた。満島の家系に絶対ない、華やかで甘い顔立ちだけれど、あまり使わない表情筋を無理やり動かして、笑顔を作ってくれている。その気持ちを汲んで、僕も笑みを返した。 「久しぶりだね、努くん。元気だった?」 「はい」  そういうと少し気まずげに口籠った。それでも少し前に会った時より、憑物が落ちたようにも見える。あれ以来、二人の関係がいい方向に進んだのは、間違いなさそうだった。 「ご飯は?」 「大丈夫、軽く食べてきたから」 「そう」  なんでもない顔で頷いておきながら、晴也は少し不満そうだった。努くんがそれを見て頬を緩め、柔らかい表情になる。 「お義母さんが来るって聞いてたから、晴也くんと一緒に晩飯作り、頑張ったんですよ」 「なんでそれ言っちゃうの、努さん」  仲良さげな二人の様子に、つい眦を下がる。 「そういうことなら頂こうかな」 「明日でも良いんだよ」 「料理が苦手な息子が、頑張って作ってくれたんだから、何があっても食べるよ。それに、今日かなり頑張ったから、もう少し食べたいなと思ってたんだ」 「仕方ないなぁ」  口ではそういいつつも、せっせと台所へ向かった。その様子を見て、僕は成長したなぁと感慨深かった。  晴也は、僕らといたころは、姉や兄に甘えて、なにも一人でやらない子だった。やれるのにやらない。それが、一度結婚に失敗した後に努くんと一緒になって、晴也は気に入られたかったのか、いろいろなことを頑張れるようになった。  事件直後の、人形のように膝を抱える晴也を見ていただけあって、晴也が自分から動くのを見られるのが、嬉しいと、心の底から思う。  一緒に準備をするのかと思ったら、努くんがまったく動く気配がなかったので、そちらに視線を向けると、気まずげな彼と目が合った。そして、意を決したようにこぶしを握って、努くんは頭を下げた。 「……先日は、すみませんでした」

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