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大切の仕方 3

 僕らは、努くんに本当に感謝している。晴也をまた元のわがまま放題の末っ子にしてくれたのは、努くんがそばにいて見守ってくれたからだ。だから彰も僕も、末っ子の婿殿には、晴也と同じくらい甘い。 「頭を上げなさい。晴也がマンションの前に立ってた時、すごく不安になったから、いいよ、とは気軽に言えない。けれど、君にも事情があったんだろう?」  それに、今こうやって謝った努くんは、不承不承謝っているようには感じない。どうしてもいう時間がなくって、今になってしまったんだろう。彰さんも誘って、晩御飯一緒にどうですか、という彼の再三の誘いを、本当に多忙で断ってしまったのは僕だし。  そういうと、努くんはうなだれた。キッチンからは手際の悪い晴也のバタバタという足音や、時折レンジが鳴る音がする。 「さっきの君たちのやり取りを見て、不自然だと思わなかったし、親としては仲が良くって安心ができるよ。謝るくらいなら、君の一生をかけて晴也を幸せにしておくれ」  努くんは顔を下に向けたまま、揺れるように何度も首肯した。 「……大事にします。大事にしたいです」 「言葉だけで終わらせないでね。晴也のああやって笑う顔を、2度と曇らせるようなことをしないでくれ」 「はい」  少し鼻にかかった声だった。こんなに感情的な努くんを見るのが初めてなので、どうしたものかと悩んでしまう。 「座っていいかい?」 「あ、はい、すみませんお茶も出さず…」 「気にしなくていいから、晴也が戻ってくるまで話していようか」 「……」  3脚だけ出されているダイニングの椅子に腰かけると、角を挟んで努くんも座った。努くんはダイニングテーブルに組んだ手を置いて、親指で親指を何度もさすっていた。緊張しているようだった。  努くんは、突然話し出した。 「少し前、母が突然ここに来ました」  彼は自分のお母さんとの折り合いが悪いそうだ。晴也や彰から伝え聞く話だと、よく言い合いになっているし、努くんが一方的に言い負かされていることもあるらしい。  親が子供を支配するという、アルファの世界では割と多いことだが、由緒正しい水守家にあって、見事にその典型に当てはまってしまっているようだ。 「……要約をすると、晴也に、いい加減アルファの子どもを産ませろという話でした」  つい先日、晴也は子供が出来ない、中途半端な体のオメガだと自分のことを言っていたけれど、そのきっかけになった出来事なのだろうか。 「その後も何度も、週の変わるたびに、晴也の発情期はどうかとか、まさか番っていないかとか、そういうことを聞かれました」 「それは…かなり、君にはプレッシャーだったろうね」  晴也はまだ20を超えたばかりだ。晴也当人にも言ったが、僕が早すぎただけで、今の出産適齢期は、経済的な事情を加味すると20代半ばから30代くらいだと言われている。そう考えれば今ですら、晴也に子どもを産ませるのは早い。それになにより、祖父母になる者の考えを一方的に押し付けるのはかなりお門違いだ。  努くんは少し考えた後、首を横にふった。 「かかってくるたびに、まだ子どもは早いと思っているからと言いました。けれど僕の年齢や、オメガはそういう性だからそれでいいのだと……それで、はっきり言い返せなかった僕が悪いんです」  年齢と言っても、まだ努くんは27なのに。彰の産めよ殖やせよだった満島家もそうだが、アルファ家系には、オメガとアルファに年齢が関係ないと思いすぎな節があるようだ。

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