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第7話
教祖は足早に新しい部屋に戻った。
あれから3ヶ月。村人たちは皆回復し、親切な薬売りに感謝し、その機会をつくった教祖をより一層讃えた。
表向きは、一対一での唱導。
薬売りはその為に暫く村に滞在する事になった。何事にも邪魔されぬよう、これまでの教祖の寝室の更に奥に、もう一室、恩返しがてら村人たちは部屋を造った。
相変わらず立派とは言い難かったが、丹精込めて造られた離れだ。
その部屋へ、教祖は逃げるように駆け込んだ。
「もう……やめて下さい……このような……」
訴える表情は暗い。
だが頬は赤らみ、声音は上擦る。
室内で暇を持て余した男は徐にベッドから起き上がると、薄ら笑いを浮かべて教祖に近付いた。
「このような? 腹ん中ザーメン溜め込んでご高説垂れる事か?」
「っ……」
薬売りの姿をした悪魔は、ゆったりとした着衣の上からそっと下腹部を撫でる。
朝の礼拝の直前まで、交わる事を強要された。
何度も体内に精液を吐き出され、掻き出す事も出来ないまま、勤めに出なくてはならなくなった。
「知っているぞ? 説教の最中に漏らした事も、勃起していた事も。緩くなったなあ? 教祖様」
柔らかく、優しく、人間に扮した掌が腹を撫でる。それだけで全身が火照った。
礼拝堂に悪魔はいなかった。でも、どれもこれも、事実だった。
有り難い神の言葉を述べながら、堪え切れなかったものが太腿を伝い、その感触に性器は反応していた。
無垢な村人や弟子たちの前で。
「皆気付いていないなんて、大したものじゃないか。さすが高潔な教祖様だ。まさかガバガバになるほどチンポ突っ込まれて、下半身ザーメン塗れのまま教壇に立っているなんて思わないものな?」
「そんな事……言わないで、下さい……」
「何故? ああ、また欲しくなるからか。遠慮する事はない、ほら、尻を出せ」
言われるがまま、教祖は裾をたくし上げる。
下着もつけていないそこは、ペニスを硬くさせ、解されたアナルからは今朝注がれた精液が垂れていた。
下腹部には、赤い烙印。
隠微な素肌を晒すと、後ろを向いて壁に手をついた。
「体の方は従順なのになあ。まあ……だからこそ、お前の魂には旨みがあるんだが」
なんの準備もなく、いきなり突っ込まれる。
「んっ……!」
「見ろよ、簡単に入った……こんなに緩いんじゃ、お前もそろそろ、物足りないんじゃないのか?」
そしてすぐに、抽送が始まった。
ぐちゅぐちゅと音を立てて出入りするペニスは、許し難いほど容易く直腸を擦る。
最早慣れた快感だった。
当然のように男の性器を受け入れ、当然のように感じ入る。
「求めてみろよ。悪魔のでっかいチンポで、奥まで突いて下さいって」
「そんな、事……ッ」
「乳首だってこんなに腫れているのに? 俺の舌は気持ちがいいぞ?」
するりと、布地の下に手が伸びる。
これまで意識する事さえなかった胸の突起は、今や赤く色づいて卑猥に肥大していた。
そんなところで感じる事も、覚えてしまった。
「ほら、欲しろよ。今よりもっと、気持ち良くなれる」
男は動きを緩める。
焦らすように、存在感を知らしめるように、ゆっくりと腰を動かした。
「好きだろう? これが。信者たちを前にしながら、頭の中ではずっと、犯される事を考えていただろう?」
耳元で囁かれる。
違う、そんな事は考えていない。考えていなかった。考えないようにしていた。
ただただ腹の中の違和感に苛まれていただけだ。
「何も悪い事じゃないさ。気持ちいいものは気持ちいい。受け入れろよ」
そう、確かに、気持ちは良かった。自ら求めさえした。中に出して下さいと懇願した。
でもそれはこの部屋の中での話。
親愛なる純粋な村人や弟子たちの前で、決してそんな疾しい事は考えていなかった。考えてはいけなかった。
考えてはいけなかったのに。
「言ってみろ。何が欲しい?」
欲しいもの。
皆の前に立って、ずっと考えていたもの。
私は、何を考えていた?
何度も何度も、言いかけては飲み込んだ。
絶対に口にするまいと心に決めていた。
けれど、もう、我慢が出来なかった。
「あ、ぁ……悪魔の……大きなおちんぽっ……下さいッ……!」
気付けば、そう口走っていた。
覚え込まされた淫猥な言葉で。
殆ど無意識に、しかし紛う事なく己の口が、確かに発していた。
遂に言ってしまった。
不思議と、驚きも後悔もしなかった。
「アハハハハハッ! 遂に言ったなあ!!」
悪魔がけたたましく笑う。
姦計に堕ちた事を知らせる、合図のようだった。
「……いいぞ。くれてやる」
打って変わって、息を潜めたような低い声が鼓膜を震わす。
その直後。
「あっ……────アアぁぁッッ!!」
「悦び過ぎだ。声が聞こえたら困るだろう?」
「あ、ああぁ……あっ……すご、ぃいい……ッ」
大きな影にすっぽりと覆われるように抱かれながら、貫かれたまま質量が変わった。
最初に1度だけ見たあの長大なペニスに、今犯されている。
あの時よりもずっと大きい筈だ。それは硬く反り返り、深々と侵入を許しているのが分かる。
快楽と言うよりは、喜悦と呼ぶべき衝動だった。
感動すら覚えた。
「凄い? まだ全部入ってもいないのに?」
悪魔の声音は相変わらず淡々としたものだった。だからこそ、はっきりと耳は聞き取る。
「え……?」
既に内臓が迫り上がってしまいそうな圧迫感がある。直接目視出来ないペニスは、一体どれだけ巨大なのだろう。
聞き返したのは、純粋な疑問だったのか、期待を込めた好奇心だったのか、判然としない。
自覚するよりも先に、理性が欠落した。
「ッアアアアアアア……──ッ!」
部屋中に絶叫が響く。
シィ、と悪魔が耳元で微かに笑いながら諭した。
瞳孔は開き切り、焦点が定まらない。そんな体を宥めるように、悪魔はそっと腹を撫でた。
丁度、烙印のある辺りを。
「見てみろよ、こんなところまで膨れている」
「ぁ……あ……」
恐る恐る視線を落とす。痩せた腹が、そこだけ歪に出っ張っていた。
教祖は医者でもなければ医療の道を志した事もない。人体の構造など詳しくはないが、それはもう、尻を犯されたで済む状況ではなかった。
体の奥深くまで、内臓まで、悪魔に穢されてしまった。
直感的に、そう感じた。
「……気持ちいいだろう?」
また囁かれる。
もうずっと、教祖は抗うという思考を失っていた。
こくんと、小さく頷いた。
「……ぃ……い……」
気持ちが良かった。あるべきものが、あるべき場所に与えられた気さえした。
初めから、これを求めていたような感覚さえ。
「素直でいいぞ。この姿なら、お前の好きな精液も、もっと注いでやれる」
「ほん……と……?」
「ああ。それこそ、腹いっぱいにな」
「んっ……ッア……!」
凶悪な大きさを持ったものが、ずるずると内臓を掻き混ぜ始める。
滅茶苦茶にされるとは、この事だと思った。
人ならざる者に、体内を凌辱される快感。ああ、これは快感だ。もう、認めるしかない。
最も嫌悪したものに、自分は今、堕ちようとしている。
その罪悪感も、今や快感と成り果てる。
「あ、ぁあっ……!」
教祖は悦びに噎び泣いた。
烙印が、一層色濃く肌に浮かび上がっていた。
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