10 / 11

第10話

「ア、アっ……! 下さい、いっぱい……ッ! 卵もっ、もっと、産むからァ……ッ!!」  がっしりとした悪魔の肩にしがみ付く。  近頃では精液や卵で腹が満たされていないと、寂しささえ覚えるようになってしまった。  腕すら容易く受け入れたアナルは緩んで、送抽の度に腸液がぐじゅぐじゅと溢れた。  悪魔は変わらず怒張を突き入れながら、冷淡な目で教祖を見下ろしていた。 「なあ。そろそろ次の命令を与えようかと思うんだが」  もう耳元で囁かれずとも、受け入れるのは造作もない事だ。 「は、はいっ! なんでも、従い、ます……ッ!」  教祖は即答していた。  村の為だとか誰かの為だとか、そんな理由は必要なくなっていた。  この悪魔は快楽だけを与えてくれる。いつしか、そんな風に思い込んでいた。祈りの言葉も、もう忘れてしまった。 「そうか。では……」 「あ、あ、あっ……ッ! ぁあっ、出てるっ、出てるっ、なかッ……あ、あっ……!」  一際深く腰を打ち付けられ、新たに腹が熱いもので満たされていく。  教祖は悦楽に流されるがまま締りのない顔を晒して、悦んで嫌悪していた筈の悪魔の体液を受け止め、自身も射精した。  これでまた卵を宿せる。  満足そうに薄っすら笑みを浮かべていると、ずるりと長大なペニスが抜かれた。  悪魔は冷笑さえせず、双眸を細めた。 「食い飽きた。こうなってはお前の魂など美味くもなんともない。だが土産くらいはくれてやろう」 「え……?」  まだ興奮も冷めやらぬ中、唐突な悪魔の発言を、きちんと理解出来ない。  土産……という事は……? 「お前はもう無価値だ。淫売にも劣る下賤な魂。今、腹にいるソレはくれてやる。後は好きにしろ」  悪魔は冷徹な言葉を、次々と突き刺していく。 「…………私は、捨てられるのですか……」 「お前だってしゃぶりつくした骨は吐き捨てるだろう? それとも、粉微塵に消し去ってやった方がいいか? 魂の欠片も残らないほど」  淡々と、なんの感情も見せずに悪魔は言った。  消される。死ぬ。魂も消滅する。そうなれば本当に、あれほど忠実に信じていた神に迎え入れて貰える事はなくなる。  悪に隷属した身では到底叶わぬ願いかもしれないが、一縷の望みさえ潰えるとなると、長く神に仕えていた教祖には、躊躇があった。  この体は最早人間ではない。ここで決断しなければ、死ぬ事も簡単ではないだろう。  だが、消してくれとは、やはり言えなかった。  それに、もし自分が死ねば。  数日後には生まれる筈の生命も、死ぬ事になる。  たとえそれが、知性のない醜悪な獣だとしても。 「………分かりました」  教祖は弱々しく頷いた。  悪魔の食事は終わった。  高潔な魂だから意味があった。  それを失えば、当然の結果だった。  そんな事も、考えられなくなっていた。 「でも、お願いです」 「なんだ」 「あの村の人々だけは、食べないで下さい」  最初の言葉を思い出す。  己が餌になれなければ、他を当たると。  折角護った村が、また食い荒らされる事だけは、あってはならない。 「……角の効力があるうちはな。無駄な事は嫌いでね」 「ありがとう、ございます」  発言の真偽を確認する術はなかったけれど、ひとまずは安堵した。  これで良かった筈だ。  きっと、これで。  悪魔は何も言わず、いずこかへと消え去った。

ともだちにシェアしよう!