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第10話
「ア、アっ……! 下さい、いっぱい……ッ! 卵もっ、もっと、産むからァ……ッ!!」
がっしりとした悪魔の肩にしがみ付く。
近頃では精液や卵で腹が満たされていないと、寂しささえ覚えるようになってしまった。
腕すら容易く受け入れたアナルは緩んで、送抽の度に腸液がぐじゅぐじゅと溢れた。
悪魔は変わらず怒張を突き入れながら、冷淡な目で教祖を見下ろしていた。
「なあ。そろそろ次の命令を与えようかと思うんだが」
もう耳元で囁かれずとも、受け入れるのは造作もない事だ。
「は、はいっ! なんでも、従い、ます……ッ!」
教祖は即答していた。
村の為だとか誰かの為だとか、そんな理由は必要なくなっていた。
この悪魔は快楽だけを与えてくれる。いつしか、そんな風に思い込んでいた。祈りの言葉も、もう忘れてしまった。
「そうか。では……」
「あ、あ、あっ……ッ! ぁあっ、出てるっ、出てるっ、なかッ……あ、あっ……!」
一際深く腰を打ち付けられ、新たに腹が熱いもので満たされていく。
教祖は悦楽に流されるがまま締りのない顔を晒して、悦んで嫌悪していた筈の悪魔の体液を受け止め、自身も射精した。
これでまた卵を宿せる。
満足そうに薄っすら笑みを浮かべていると、ずるりと長大なペニスが抜かれた。
悪魔は冷笑さえせず、双眸を細めた。
「食い飽きた。こうなってはお前の魂など美味くもなんともない。だが土産くらいはくれてやろう」
「え……?」
まだ興奮も冷めやらぬ中、唐突な悪魔の発言を、きちんと理解出来ない。
土産……という事は……?
「お前はもう無価値だ。淫売にも劣る下賤な魂。今、腹にいるソレはくれてやる。後は好きにしろ」
悪魔は冷徹な言葉を、次々と突き刺していく。
「…………私は、捨てられるのですか……」
「お前だってしゃぶりつくした骨は吐き捨てるだろう? それとも、粉微塵に消し去ってやった方がいいか? 魂の欠片も残らないほど」
淡々と、なんの感情も見せずに悪魔は言った。
消される。死ぬ。魂も消滅する。そうなれば本当に、あれほど忠実に信じていた神に迎え入れて貰える事はなくなる。
悪に隷属した身では到底叶わぬ願いかもしれないが、一縷の望みさえ潰えるとなると、長く神に仕えていた教祖には、躊躇があった。
この体は最早人間ではない。ここで決断しなければ、死ぬ事も簡単ではないだろう。
だが、消してくれとは、やはり言えなかった。
それに、もし自分が死ねば。
数日後には生まれる筈の生命も、死ぬ事になる。
たとえそれが、知性のない醜悪な獣だとしても。
「………分かりました」
教祖は弱々しく頷いた。
悪魔の食事は終わった。
高潔な魂だから意味があった。
それを失えば、当然の結果だった。
そんな事も、考えられなくなっていた。
「でも、お願いです」
「なんだ」
「あの村の人々だけは、食べないで下さい」
最初の言葉を思い出す。
己が餌になれなければ、他を当たると。
折角護った村が、また食い荒らされる事だけは、あってはならない。
「……角の効力があるうちはな。無駄な事は嫌いでね」
「ありがとう、ございます」
発言の真偽を確認する術はなかったけれど、ひとまずは安堵した。
これで良かった筈だ。
きっと、これで。
悪魔は何も言わず、いずこかへと消え去った。
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