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すれ違いの僕と君4

 吉川の立ち去る足音が、どんどん小さくなっていく。それがまるでふたりの心の距離のように感じてしまって、胸の中に何とも言えない苦々しい想いがぐるぐると渦巻いていった。  ――不甲斐ない僕のせいで、吉川に悲しい想いをさせている――  僕は傍に落ちていた(かけ)を手に取り、苛立ちと一緒に壁に向かって投げつけた。  弓道家にとって(かけ)はまさに「かけがえのないもの」である。けれど不甲斐ない自分のことや吉川を傷つけてしまった胸の痛みを何とかしたくて、物に当たらずにはいられなかった。 「僕たちふたりにとって、高校最後の夏なのは分ってる。だけど、どうしても譲れなかったんだ。最後の夏よりもこれからの未来に、夢を託したかったから――」  残しておきたいものほど大事にしすぎて、無くしてしまうことがある。  下唇を噛みしめ投げつけてしまった(かけ)を手に取り、それを擦りながら胸の中にぎゅっと抱きしめた。  この部室で吉川と何度も肌を重ね、体と同時に想いを絡めて同じ時間をたくさん共有した。そのお蔭で部室の隅々には、過去に交わしたふたりの会話やそのときのぬくもりが散らばっているように見えて、それを感じると体がじわりと熱くなる。  今は寂しいけどそれを胸に僕は歯を食いしばりながら、死に物狂いで頑張らなくてはならない。 「(こう)、ゴメンね。僕が至らないばかりに、こんなことになってしまって。だけど君を追いかけるために、やらなきゃならないことがあるんだ」  君の近くにいるために、今の僕ができること。それは――

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