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すれ違いの僕と君5

***  眩しいくらいの青空に新緑の色がやけに鮮やかで、口を開けたまま目を細めずにはいられなかった。 「ノリとこの空を一緒に見たときは、まだ桜が咲いていたっていうのにな。時間が経つのって、スゲー早い……」  なのにひとりでいる時間が、思った以上に長く感じてしまうんだ。 『桜ってさ、花の一つ一つはこんなに小さいのに、一斉に咲くとすごく迫力があるよね』  お昼休みに、桜が見られる中庭のベンチを早々とゲットした。ノリとふたりきりで花見をすべく、一緒に昼飯を食べる。時折ふわりと舞い散る優しいピンク色の花びらが、とても儚げに見えた。    すぐに消えてしまう大好きなノリのうっすら笑いと比例するじゃんと内心考えたら、次の瞬間には俺の頭の中に違う花が現れた。これを話題にしてノリを笑わせてやろうと、嬉々として喋りかけた。 「桜に限らず花が集団で咲いてたら、勝手に迫力があるだろ。ひまわりなんて、脅威に感じるレベルじゃね?」  当たり前のことを言った俺に、呆れた視線でじろりと見るノリ。その目の白いことこの上ない。 『吉川にかかれば、桜とひまわりは同じ扱いなのか。まったく……情緒が一気に崩されていく』 「昼休みは永遠じゃないんだ。とっととベンチの隅っこに移動して、膝を提供すべし!」  ため息をついて弁当箱を閉じたノリに、先に弁当を食べ終えていた俺は、ベンチの下に持っていた弁当箱を置くなり命令した。 『分かったから、そんなに押し出すなって。落っこちちゃうよ』  苦笑いしながら、はい、どうぞと膝を快く提供するノリに、サンキューと言ってベンチにごろんした。 「キレイな青空にキレイな桜と、キレイなノリの3点セット。いっぺんに味わえちゃう俺って、すっげぇ幸せものだなぁ」 『もう、何を言ってんだか。見た目も中身も僕は普通だよ』  口調は文句に近いものだったけど、しっかりうっすら笑いを浮かべたノリを可愛いなぁと思って、じっと見つめる。  そんな俺の視線に気がついたのか、ほんのりと頬を赤らめた。ちょっとしたことでこうやって表情を変えれるのって、恋人の特権だよな。    内心ほくそ笑みを浮かべる。 「ノリ、来年も一緒に桜が見られたらいいな」 『そのときはきっと今みたく、吉川に膝を貸さなきゃならないんでしょ?』 「当たり前だろ、俺の指定席だしな」 『もう……。来年からは有料にするよ。僕たち大学生なんだからね』  肩をすくめつつ俺の頭を優しく撫でながら有料宣言する可愛い恋人に、思わず笑ってしまった。 (本当にちゃっかりしてる。そんなところも、実は好きだったりするワケだが――) 「じゃあ、とりあえずリザーブしておく。んっ!」  唐突にノリの頭を鷲掴みして自分に引き寄せようとしたら、慌てふためいてジタバタした。頬を更に赤らめて困惑する顔すら、本当に可愛いって思う。 『ちょっ、待てって吉川! こんな目立つところで、そんなコトができるワケないだろ!?』  メガネをズリ下げながら、俺の額をぐいぐい元に戻そうとする。 (あのなぁテレるのにも限界があるぞ、首が痛い……) 「大丈夫だって。みんな桜に夢中で、俺たちなんか見ちゃいないから」  説得力ありまくりの俺の言葉を華麗に無視し、前後左右をキョロキョロして、しっかり周囲を確認する。この行動、いつものことだけどな。 『まったく……。吉川には敵わないよ』  周りから見えないようにするためか両手で俺の頬を優しく包み込み、そっと唇を合わせた。  桜の花びらがひらりひらりと舞い散る中で交わされた俺たちの約束はきっと叶うって、このときは思ったんだ。  なのに、今は――。 「俺がひとりでベンチに座ってる。隣には……誰もいないって、な」  寂しげな顔で目を細めながら空を見上げる吉川を、淳は眉間にシワを寄せて遠くから眺めていた。

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