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諸刃の剣3
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本当はサッカー部キャプテンとして、高体連に向けての練習を率先してやらなきゃならない。しかし大事なことをランキングにしたら、今の俺にはノリ以上に勝るものがなかった。
それゆえに副キャプテンに、今日の練習メニューをすべてを押しつけ――じゃなく丁重にお願いして、弓道場に来ていたのだった。
ノリが弓を引く姿を初めて見た垣根のある場所から、同じように射場の中をじっくりと見渡した。
「どうして吉川さんが、こんなところに来てるんだろ?」
「近くで見ると、マジでカッコイイ!」
俺の横でギャーギャー騒ぐ女子がいるが、しっかり無視を貫く。今はそれどころじゃない。イライラしながら、両拳をぎゅっと握りしめた。
視線の先には例の藤城とノリが向かい合う形で、楽しそうに会話しながら射場にいたからだ。
(――ここにボールがあったらヤツの顔面に目がけて、弾丸シュートしてやるのに……)
きちんと淳のいうことを聞き、サッカーボールや他の物を持って来なかったのだけれど、内心悔しくてならない。
その内ノリが弓を引き、向かい合った藤城が抱きつくような格好で指導を始めた。
「ほらほら、弓に押し負けてるぞ。もっと腰を入れなきゃ」
そう言ってノリの腰(もしくはお尻?)付近を、躊躇せずにぐいっと触って、弓に引きつけるように抱き寄せる。他にも腕や背中、首筋なんかを触りまくっていた。
てか何気にノリの敏感ゾーンばかり狙って、ワザと触ってないか!? アイツ……俺のノリにべたべたと過剰に触りすぎだろ、おい。今すぐ弓矢を借りて、狙い打ちにしてやりたい!!
「まったく――。今日のノリトくんは気が散っている上に、下半身に力が乗っていないね。ジャージに着替えて、外周10周走ってきなさい」
「はい、すみません……。行ってきます!」
下唇を噛みしめながら悔しそうな顔をしつつも、きちんと藤城に一礼して射場を出て行ったノリ。
いつもはもっと、伸び伸びと楽しそうに弓を引くヤツだったのに……。今は、すっげぇ苦しそうにしか見えない。もしかして藤城が考えた練習メニューが、ノリにとってキツイんじゃないだろうか。あとは――。
「やっぱり原因があるから、結果となって出るんだね」
「わっ!?」
突如、垣根のむこう側から藤城がひょっこり現れ、俺の顔を見てニコニコした。
俺よりも少しだけ背が高くて、体も大きい。もっさりとした髪型にメガネをかけた瞳が、やけに優しげに見えて、頼れる先輩って感じがした。
体が大きいから威圧感があっても良さそうなのに、ほわわんとした雰囲気がそれを打ち消していて、口撃したいのにこの何ともいえない雰囲気が、うまいこと言葉を奪っていく――コイツと2歳しか変わらないのに、自分がえらく幼く感じてしまった。
「君、吉川くんだよね? いやぁ、本当にイケメンだなぁ」
「はぁ、どうも……」
ノリ以外のヤローに褒められても、正直嬉しくない。いきなりフレンドリーに話しかけられて、どんな顔をしていいか分からなかった。
「ちょうど、君と話がしたかったんだ。これから一緒に、部室に来てくれるかい?」
俺の返事を聞かずに、さっさと部室の方に向かって歩いて行く。
(――半強制じゃないか、一体何だっていうんだよ)
内心文句を言いながら藤城の後ろをダラダラついていくと、ジャージに着替えたノリが部室から出てきて、俺の横を走り抜けて行く。
すれ違う瞬間、視線を合わせないようにするためなのか、あらぬ方を見て走り去ったノリ。そんな冷たい態度をとる後姿を、黙って見送るしかできなかった。
「あーあ、もう意識しまくりだね。本当に罪作りな男だな、吉川くんは」
相変わらずニコニコしながら酷いことを告げる藤城を無言で睨みつけたら、急に真顔になる。
「今のノリトくんにとって、君はただの邪魔者だ」
低い声でぼそりと告げるなり、部室の中に消えていった。
(――俺がノリにとって邪魔者になる?)
足元に落ちている石ころを蹴飛ばし、苛立ちを消化してから弓道部の部室に足を踏み入れた。
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