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抗えない衝動・唇から熱――3
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「…っ…うっ……ひっ…」
どこをどう走ってきたか、全然分らなかった。気がついたら体育館横にある2年前に爆破予告事件のあった大きな物置の影に身を潜ませて、体全体で呼吸を一生懸命にしている状態だった。
――心を落ち着かせるには、まずは呼吸を整えること――
頭では分っているのに、体がそれを拒否しまくる。
吉川を叩いてしまった右手よりも、自分の胸の中がぎゅぅっと締めつけられるように痛くて、それをどうにかしようとすればするほどに、呼吸がどんどん乱れていく。
「あんな目で僕を見るなんて反則に近いよ、まったく……」
揺るがないようにしっかりと閉じ込めた気持ちを、吉川の熱い瞳という鍵で間単に開放されてしまった。幾重にもロックをしたワケじゃないけど、それなりに自信があった。
一緒にいないことが当たり前になった、日常がベースになっていたからこそ。
藤城先輩の言うことをきちんと忠実に聞いて、弓道の練習だけに集中していた。自分がこれから出る試合に向けて勝つことだけを目標に、日々練習に励む毎日。
その結果、吉川の姿を見てもその声を聞いても、平気でいることができた。絶対に大丈夫だって、確信したのにどうして――。
「君の存在が大きすぎて、本当に困っちゃうよ。どうしてくれるんだ、煌……」
好きな人にキスされて、嬉しくて堪らなかった。久しぶりに感じることのできた吉川の体温や香りが愛おしくて、もっと欲しくて縋ってしまった。それはまるで渇いた喉を潤す水を欲するように、手を伸ばして求めたんだ。
求められるまま応じたキスの最中にハッと我に返り、ザーッと青ざめ、頭の中に弓道の試合のことがぶわっとよぎった。
(このまま流されてしまったら、きっと的に中らなくなる! 勝てなくなった、そのときは――)
気付いたら、吉川を強く平手打ちしていた。しかも罵声まで浴びせてしまった。僕だって悪かったというのに、何をやってるんだか。ホント、恋人失格だよ。
唇から与えられた熱が、体を駆け巡って僕を更に熱くさせる。
「外の暑さと体の熱が相まって、何だかフラフラするな」
きつく結んでいたネクタイを、緩めながら青い空を見上げた。
「……吉川、今頃どうしてるだろう。ごめんね――」
流れ落ちた涙を拭うことを忘れ、しばらくの間ぼんやりと空を眺める。与えられた熱を逃がしたくなくて、噛みしめていたいと強く思った。
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