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背中合わせの僕と君3
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「あーあ、ツイてないなぁ。2日連続でジャンケンに負けるなんて。キャプテンとして、これは由々しき問題だ。もっと強くならねば!」
明日の試合に向けて、土曜の今日は軽く練習していた。さんさんと直射日光を浴びせてくる容赦のない太陽を見上げながら、滴り落ちてくる汗を拭う。
練習の合間に挟んだ貴重な休憩時間、大勢でやったジャンケンに見事に負け、みんなのジュースを買いに学校から徒歩5分に位置するコンビニまでの道のりが、やけに遠く感じた。
「――ったく、これも体力練成、体力練成っと!」
呪文のように唱えながら重い体を引きずるようにダラダラ歩き、あと数歩でコンビニに到着するというときだった。
コンビニ横の歩道を、見覚えのあるふたりが仲睦まじく微笑みながら並んで歩いて、俺の目の前を通り過ぎて行く。
ふたりの姿に自然と鼓動が高鳴り、いても立ってもいられず、気付いたらコンビニを通り過ぎて後をつけてしまった。
「ノリ……」
男子トイレで無理やりにキスして以来、どうにも顔を合わせにくくて、ノリの前から姿をくらませていた。校内で見つからないようにするにはマジで神経使いまくりで、できることなら透明人間に是非ともなりたかったくらいだった。
そんな俺の苦労も知らず、楽しげに談笑しているノリが可愛さ余って何とやら……。どうして藤城相手に、まばゆいばかりの笑顔を振りまくんだ。そのあまりの可愛さにときめいて、迫られるかもしれない可能性だってあるんだぞ!
「……っ、うわっ!」
イライラ度マックスの手前で突然ノリがしゃがみ込み、両手で頭を抱えた。
「い、今、耳元で何かの羽音がっ……」
「まったく――。男のクセに弱虫だなぁ、どれどれ? ああ、髪の毛についてる」
「ひっ!!」
「あははは、大丈夫だよ。すっごく小さい虫だから」
笑いながらノリの髪に触れようとした藤城の手を、虫ごと叩き落としてやる。
ぱんっ!
「吉川くんっ!?」
「誰だって苦手なものが、ひとつやふたつあるだろ。ノリのことをバカにすんな」
怒気を含んだ俺の言葉に、目を見開いたまま口をパクパク動かすノリ。
ドウシテココニ、イルンダヨ?
突然現れた俺に、かなり驚いているのだろう。ぽかんとした顔がそう言っている。
「いやはや、バカにしたつもりはなかったんだけど。ごめんね、ノリトくん。大丈夫かい?」
「……大丈夫です。すみません、情けないところを見せてしまって」
ノリはゆっくり立ち上がると、さっきとは真逆のすごい怖い顔でキッと睨んできた。その迫力は男子トイレで俺を殴ったときよりも、倍以上に怖いものだった。
「吉川も謝れよ! 僕がお世話になってる藤城先輩の大事な手を叩くなんて、信じられない行為なんだぞ!」
「やっ、だってよぉ。藤城のヤツがノリに触ろうとしたのが、どうしても許せなくって、さ」
「何を言ってんだよ、虫を取ってくれようとしただけじゃないか。その手を叩くなんて最低だよ吉川、もうキライ……」
吐き捨てるように言って、俺に背を向ける。その背中が冷たいの何の……
――ノリに嫌われてしまった――
さっきの言葉が頭の中で、エンドレスリピートする。
もうキライ、もうキライ……吉川なんて大嫌い!!!
「ノリトくん、いいから。吉川くんが灰になってるよ」
「でも……」
「じゃあ師匠として命令するよ。吉川くんに例の話をしてあげなさい。おい吉川くん、これから時間あるかな?」
藤城の言葉に、ピキーンと表情が固まるノリ。例の話って、何なんだろう?
「えっとメインの練習自体は終わってるので、大丈夫ですけど――」
「それなら話が早い。ノリトくんの話を聞いてやってくれないか? 彼の心にある重荷の半分でいいから、ぜひとも背負ってやってほしくてね」
「藤城先輩っ、あれを言ってしまったら、自分がダメになっちゃうかもしれないんですよ。そしたら僕はもう……」
眉根を寄せてつらそうな顔をするノリの肩をなだめるように、優しく叩く藤城。
「的のむこう側に彼はいない。だけどすぐ傍にいなくちゃダメだって、ここ数ヶ月でよぉく分っただろう? だからこそすべてを彼に打ち明けて、きちんと支えてもらいなさい。それが今日やらなきゃならない、練習の仕上げだよ」
言い終わった途端に、ノリの体を俺に向かって突き飛ばしてきた。慌ててキャッチし、その体をぎゅっと抱きしめる。
――もう絶対に離さない――
体に回した腕に力を入れると、呼応するかのようにノリも俺の体を強く抱きしめてきた。
「可愛い弟子の話を、最後まで聞いてやってくれよ。今まで頑張った分、うんと甘えさせてやってほしい」
藤城は笑いながら言って元気よく右手を振ると、来た道を戻っていく。
俺はちょっとだけ腕の力を抜き、ノリの顔をじっと見た。久しぶりに間近で見る、愛しい恋人の顔――。
「天然のクーラーがあるところで、話をしようか。俺の秘密の練習場なんだけど」
「秘密の練習場? いつの間に、そんなトコを開拓したんだい?」
小首を傾げながら俺に質問してくる姿に、心臓が一気に全速力で駆け出した。
「俺もノリに負けないように、特訓してたんだよ。結構近くなんだ、こっち――」
テレたところ見られたくなくて慌てて顔を逸らし、ノリの細長い指に自分の指を絡ませて、せせらぎ公園の中にある、森の中に向かって歩いた。
さっきまでのイラついた気持ちが一転、早鐘のように鳴っている心臓に、内心呆れ果ててしまう。久しぶりに手を繋いだくらいで、こんなに胸が騒ぎまくるなんて。
それに比べてノリってば多少テレてるように見えるけど、いつもより冷静に見えるのはなぜだ?
そんなことを考えつつ空いた片手でコッソリと、副キャプテンにメッセージを打つ。
『緊急事態発生! 悪いが俺はこのまま、帰らなければならない大雪な用事が出来てしまったので、各自解散とする! ジュースは明日必ず持参するから、そこんとこ許してちょ!』
そして忘れてはならない苦情を受け付けないように、しっかりと電源を切った。
きっと明日は、袋叩き決定だろうなぁ。(ノД`)シクシク
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