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背中合わせの僕と君4

*** 「吉川、森に入った途端に空気の温度が変わったね。日差しが遮られたせいかな……。涼しく感じる」  指がしっかりと絡められた手は相変わらず熱を持っていたけど、まとわりつくような夏の空気が森に入った瞬間から変わって、天然のクーラーという名が相応しいのを体でしみじみと納得してしまった。  森の中には散策コースがあって、歩きやすいような道が整備されている。なのに吉川はすぐにその道から逸れて森の奥深くを目指すべく、道なき道を迷うことなく歩いて行った。 「あの、吉川……。どんどん奥に向かって行ってるけど、大丈夫なのかい? 迷ったりしたら出られないかもよ」 「大丈夫だ、目印つけてるしな」  正直吉川の大丈夫だという言葉は、アテにならないことがある。それをよぉく知っているので、心配性の僕はあちこちをキョロキョロし、目印らしきものを探してしまった。 「どんだけ俺って、お前に信用されてないんだか。おい、地面を見てみろよ」  呆れた顔して言う吉川を本当かよという目で見てから、言われた通りに地面を見てみる。  どれどれ――何だか雑草が一定方向に向かって、倒れてるように見えなくもない。 「ほぼ毎日ボールを蹴って、ここに来てるからな。俺だけの道が出来上がってるんだよ」 「ふーん……」 「何だよ、薄い反応だな。もっと感動すれよ、吉川スゴイとかエライとか」 「……僕の目の届かないトコで、誰かと如何わしい行為に及んでいるんじゃないかと、さりげなぁく心配したんだけど?」  じと目をしながらそう言ってやると、吉川は大げさにコケたふりをした。 「ホントお前ってバカ! どれだけ俺がノリのことを想ってるか分んねぇだろうな。スゴイことになってんだぞ!」  繋いでた手を振り解き、自分の胸をバシバシ叩いて必死な顔をしながら説得する。その様子が正直なところ、可笑しいのなんの。久しぶりだな、この感じ――バカと恋人に言われて笑っていられるのって、自分くらいかも。  目を細めて、怒っている吉川を見つめた。 「心は見えないからね、口では何とでも言って誤魔化せるものだよ」  突き放すように言ってみたけど、実はすごく嬉しかった。距離をおきたいと言ったり、引っ叩いたりもうワガママ放題の僕なんか、キライになってもおかしくないのに。  ――変わらずにいてくれた君が、とても愛しく思うよ―― 「うっすら笑いを浮かべながら言ってもだな、説得力が全然ないぞ、お前」  そう言うや否や、さらうように僕の体をぎゅっと抱きしめる。  その後、行われることを想定して迷うことなく目を閉じた。そのまま吉川のキスを待ったのに、なぜだか一向にしてこない。  不思議に思って目を開けると、唇が触れそうな超至近距離でピタリと固まっていた。 「吉川――?」 「今からキスするけど、もう引っ叩くなよ。結構痛かったんだ」  あ、そう言えば謝ってなかったよ。親しき仲にも礼儀ありだよね。ホント、僕ってダメだなぁ……。 「あの、ゴメンね。流されないようにしなきゃと思ったら、振りかぶって叩いちゃった」  しょんぼりしながら言うと、ちゅっと軽くキスする。 「何だよ、それ。お前が色目を使って、俺を翻弄したからなんだぞ」 「そんなの使ったつもりないよ。普通に君の顔を、何気なく見上げただけだってば」 「今だって使いまくってる。それを見ただけで、もうドキドキしまくりなんだからな」  文句を言いながら唇を尖らせる君に、ときめいてる僕ってかなぁり重症だよ。 「そうなんだ、良かった――ちゃんと伝わってて」 「何が?」 「だって今ここで、吉川とセックスしたいって思ってるから」 「はい――!?」  素直に告げた僕の言葉に狼狽するなり両手をパッと上げて、なぜだか何もしませんをアピールする。そして誰もいないというのに、目の前で落ち着きなくキョロキョロした吉川に、苦笑いをするしかない。  この行動って、いつも僕がしているものなんだが。 「はっ、はじめに言っておくぞ。俺は変なことをするつもりで、ここに連れて来たんじゃない。快適な環境下でお互い話し合ったら、分かり合えるだろうと思ってだな」  必死に弁解する吉川が、可愛く見えてきちゃった。思わず肩を震わせて、くすくす笑う。 「そうなんだ、へぇ。てっきり誰にも邪魔されない場所に連れ込んで、やることやっちゃうんだと思ってたんだけど」 「おまっ、何すっげぇ大胆なこと言ってんだよ。ここをどこだと思ってんだ?」 「外。誰も来ないであろう、深い森の中でしょ。ここなら薄暗いしブキミだから、大隅さんもやって来ないよね」  聞かれたことを普通に答えてるだけなのに、吉川は更に狼狽えた。 「ノリってばイメチェンしたら、性格まで変わっちまったのかよ。大胆すぎて心臓に悪い……」 「変わってないよ、ただ――」 「ん?」  狼狽える吉川が、ますます可愛く見える。どうしよう――今すぐにキスしたい、抱きしめ合いたい! 「いつもはキスされて、嬉しくて言いたいことが言えないだけだったから。伝えたいことが多すぎて、何から伝えたらいいか分らなかったけど。今はとにかく、吉川に抱いてほしいって思ったんだ。一番近くで感じたいって思ったから……」  自分の願望を叶えるべく、僕よりも少しだけ背の高い吉川の首に両腕を絡めて、掠め取るようにキスをしてやる。  これじゃあ、いつもと立場が逆だね。 「大胆なノリに忠告しておくけど外でするってことは、お前のキライな虫がいるかもっていうことなんだぞ? やってる最中に、俺をぶっ飛ばして逃げたりするなよな」  僕のキスから解放されると、畳み掛けるように言葉を発した吉川。 「お願いだから虫を無視できるくらい、僕を煌で夢中にさせて」 「お安い御用! 虫を無視させるくらいにお前をガンガン感じさせて、イかせてやるからな!」  鼻息荒くして言い放つと大きな木に僕を張りつけて、しっとりと唇を合わせてきた。空いた手でズボンからシャツを引き抜き、直に肌に触れて翻弄していく。 「ん、あぁっ……吉川っ」  僕と吉川の体温が上昇したせいで、周りの空気も一気に上がったみたいに感じるよ。あんなに涼しかったはずなのに、とても不思議だ――吉川に触れられただけで、心も体もぜんぶ沸騰していく。君に溺れて自分自身が制御できないくらいに、どんどん求めてしまう。 「ノリ好きだ……。ずっとお前を抱きたかった」  それに答えようとしたのに、イジワルな吉川は答えごと僕の唇を奪っていき――今までの距離を埋めるようなその行為を受け止めつつ、何度も求めてしまった。  煌の全部が欲しくて、堪らなかったから――。

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