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伸るか反るかの頂上決戦!

 適当に用事を作り、大手を振って部活をサボった。生まれて初めて弓道の試合に観戦に来たけれど、同じ学校の奴らに見つかったらマジでヤバいよなぁ。  試合をする場所は市営の弓道場で、学校にある弓道場とは違い、射場の両サイドには野球部で使う強固なネットが張り巡らされていて、安全面にとても配慮している所だった。  試合が始まる前に弓道部主将として部員に活を入れているノリの姿を、控え室で素早く発見し、その姿をじっと見つめてしまう。  俺の大好きな凛々しい顔でみんなの緊張を解そうとしているその姿に、胸がじんと熱くなった。部員の奴らよりも自分のほうが何倍も緊張してるクセに、平然を装って一生懸命に主将らしいことをしているところは、サッカー部キャプテンとして見習わなくちゃな。  微笑ましい場面に、思わず口元が緩んでしまう。 「おーいっ、ノリ! 応援に来てやったぞ!」  一呼吸置いてから緊張を隠している背中に、ワザと大きな声をかけてやった。 「あ、吉川、本当に来てくれたんだ」 「当たり前だろ。今、ちょっといいか?」  返事を待たずにノリの手首を掴んで、人ごみ溢れる控え室から強引に連れ出す。部外者の俺でも、あの緊張感に飲まれそうになったから何とかしてやりたかった。  人目を避けて大きな木の下で、隠れるように向かい合う。 「どうしたんだい? こんなトコに連れて来て」  不思議顔で見上げるノリの左手を、ゆっくり手に取った。 「おまじないをしてやろうと思って、さ」  途端に頬をぽっと赤くするノリ。しかも口元に、いつものうっすら笑いを浮かべた。久しぶりだな、この感じ――。 「あ、覚えていてくれたんだ」 「効くんだろ? この前は入賞してたもんな」  テレまくる顔をしっかり見てから、左手にそっと唇を押し当てる。 「うん、すごく効くよ、吉川のおまじない。右手もお願い……」  恐るおそるといった感じで右手を差し出した手を優しく握りしめてから、同じようにちゅっとしてやった。 「ありがと、すっごく嬉しい。あのね僕、絶対に勝つから。頑張るから見ててほし――」 「頑張らなくていい……。気負わなくていいんだ。無理すんなよ」  右手を引いて、その細い体をぎゅっと抱きしめてやる。 「ふたりで一緒にさ、これからのことを考えればいいじゃん。お前ひとりで、こんなに背負い込んで、無理することないって」 「ひとりじゃないでしょ。振り返れば、吉川が背中にいてくれるんじゃなかったっけ?」 「ノリ……?」  俺の腕の中で身じろぎし、ふわりと微笑むノリの笑顔がすごく眩しかった。思わず目を細めてしまう。 「僕ね、吉川を好きになった瞬間に、自分の恋心について諦めてしまったんだ。だって相手は男なワケだし、イケメンで人気者の吉川が僕を選ぶなんて思いもしなかったから。はじめから叶わない恋だって何もせず諦めていたのに、君が僕を好きになって、追いかけてきて告白してくれた。投げ出してしまった想いを吉川が拾い上げてくれたからこそ、こうして向かい合うことができてる」  一旦言葉を切り、キリッとした表情をして俺を見上げるノリ。この顔をされると、手を出したくても出せなくなる。  俺の憧れた凛々しい顔――。 「その想いに報いたい。どうしても一緒にいたいって強く思うから、絶対に勝ちたいんだ、煌。自分の気持ちに嘘をついて君に頼りきって生きるくらいなら、死んじゃったほうがマシだよ」 「おいおい、何言ってるんだ、死ぬなんて言うな」 「それくらいの気合がないと勝てないから……。だから吉川、最後まで僕のことを見ててね。君のために頑張るから!」  ヤバい――何か言って励ましたいのに、上手く言葉が出てこない。胸の中に熱い何かが、ぶわっとこみ上げてきて涙が零れそうになる。 「ねぇ、最後のおまじないを頼んでいいかな?」 「……何だ?」 「煌のキスが欲しくて――君の情熱が僕の力になるから……。だから、ちょうだい?」  言いながら目を閉じ、薄く唇を開けてキスを待つ。俺は壊れ物を扱うようにノリの両頬を包み込んでから、ゆっくりと唇を重ねた。  愛してるという想いを込めて、しっかりとキスをした――。

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