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俺の世界の中心に 第一話

俺の名前は山田 太郎。 山田姓に生まれた者が子供に太郎と名付けるこの勇気は賞賛に値すると聞く……。 ふふふ……だがこれは本名ではない。 俺の本当の名前は『ランドルフ・ビッテンフェルト・ヴァルトトイフェル・フリートラント』だ。 兄からは『ラビ』と呼ばれている。 俺は今、俺が創り上げたこの世界に魔王として君臨し、ある者の到着を待っている。 高杉 奏汰。 俺の可愛い、可愛い嫁。 ――――――――――――――――――― 俺は人間ではない。 神だ。 本当はちゃんとした自分の世界を持っていたのだが、ちょっとした手違いで消滅してしまった。 ……世界は上から見ているだけでは駄目。 たまには世界の中に降り立ち、パトロールをしなければいけないのだが……さぼっているうちに『世界喰い』と呼ばれる、蟲が大繁殖してしまった。 気付いた時には内側から食い破られており、手遅れだった。 自分の世界を無くし、信仰心が集められず力を無くしたが、1000年ぐらい経てば、何もしなくても徐々に力は回復していくのでフラフラ『無』の世界を漂っていると、真面目な兄貴にめっちゃ怒られた。 兄貴の世界で信仰心を集めて、 さっさと力を蓄えろと、投げ込まれた世界で出会ったのが奏汰だ。 兄貴の世界は比較的穏やかで過ごし易い。 しかし、当然ながら世界の色々な国で信じられている神への信仰心は兄貴に向かう。 信仰心を得ようにも何の力も無い俺が何を言っても白い目で見られるだけで、俺の力は依然として戻らない。 『ラビよ……お前はいつまで俺の世界でニートを続ける気だ?』 黒いカラスが俺を塀の上から見下ろして来る。 兄貴の仮の姿だ。 「んな事、言われてもさ……俺が力を絞り出して奇跡を起こしても、信仰心は兄貴に向かうじゃん……やる気でねぇよ……」 初め、この世界の人間の中……学校という場所に紛れ込んだばかりの時は、力がグンッと上がったのでこれなら楽勝だと、この世界の人間として生活する為に家だとか、服だとか諸々を用意していったらすぐに力が底をついた。 兄貴の世界なので消費が通常より激しい様だ。 すぐに集まるだろうと思ったが、最初の様に力は集まらない。 俺が喋れば喋る程、増加量が減るという事に気付いたので、大人しくしている。 大人しくしていても、多少は上がっていくし、この分なら800年ぐらいかな。 急に兄貴がピクンと首を持ち上げ、飛び去っていった。 振り返った先にいたのは、同じクラスの高杉 奏汰。 特に話した事はなかったんだが……。 何だ?力の……増加量が上がっている。 こいつ……俺の信者か!! そうか……特に奇跡を起こさなくてもにじみ出るカリスマ性に惹かれる者はいるのだな。 ふっふっふっ………お前が俺の信者第一号だ。 「貴様は高杉 奏汰だったな……喜べ、俺の側にいる事を許してやろう」 ……………………。 あれ……?喜ぶかと思ったら、白い目でこそ見られなかったが、無表情だった。 「あの…俺の側に……居たくないのか?」 不思議そうに小首をかしげられた。 他の奴らなら、目を会わさない様に逃げていくところだが、高杉 奏汰はその目を真っ直ぐに向けて来る。 その瞳にどういう真意が宿っているのか、分からないけど……悪意でないのは、力が回復していく事からわかる。 「いきなり意味わかんねぇ……じゃあな、また明日」 くすくすと笑われて、手を振られて、雷に撃たれた様にドォォンッと激しく力が溢れた。 「あぁ……また……明日……」 つられて手を振る。 …………何だ……これ? 温かい力が込み上げてくる胸に手を当てた。

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