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君の世界の片隅で 第六話
「やっと…着いたぁ……」
苦労をした分、感動も大きい。
「皆さん、ここまで送って頂き本当にありがとうございました!!皆さんの旅のご武運お祈り致します」
旅の仲間に渾身の笑顔で頭を下げる。
名残惜しさはあるが、貞操の危機に晒されながら旅を続ける気にはなれない。
「ソータ……俺達の仲間には……なって貰えないのかだろうか……?」
「すみません。今回の事で、旅をするには体力的にも精神的にも向かないことを痛感しました。この街で職を探してみようと思います」
核心には触れず、丁重にお断りをする。
「俺が守るから!!君が疲れた時は俺が背負ってでも進むから!頼む!側に……俺と一緒にきてくれ!!」
ギーナに手を握られ、いきなり核心に触れられた。
助けて貰った恩義はある……が、ギーナとそういう関係になることは考えられない。
「ごめんなさい……俺……大切な人……好きな人がいるから……」
人生で初めて告白されて、初めて山田の気持ちがわかった。
告白……断り辛い。
好きな人がいる……なんて無難な断り文句。
好きな人がいるのは……嘘では無いし……。
「そうか……無理を言って、すまなかった……」
俯いたギーナ。
すげぇ……気まずい。
でも、その気も無いのに、ここで中途半端にする方が酷だよな。
「ごめん……俺、もう行くね。お金持ってないしお礼なんて出来ないけど……これ……」
生肉のタッパーを渡した。
肉は元々ギーナ達が狩ったものだが、鮮度の変わらないこのタッパーはいろいろ使えると思うんだよな。しかも下味つき。
お金が無いからお礼が出来ない。
そう、俺は無一文だ。
どうしよう。
宿泊はおろか、食事も出来ねぇ。
いや……俺には山田に貰った家事チート能力がある。
何とかなるはずだ!!
俺は食堂を探した。
「お願いします!!雇って下さい!!」
身分を証す物も何もない。
裸一貫体当たり。
恥じなんて捨てて生きてこの世界から帰ってやる!!
三軒目にしてようやく手応えがあった。
開店前の客の居ない酒場で店主と向き合う。
「……何が出来るんだ?」
店主は熊みたいな見た目で怖そうな人だったけど門前払いはされなかった。
「家事全般です!!」
ここは勢いで押しきろう。
タライを取り出して、水を貯めると積まれていた食器を浸ける。
引き上げると、なんと言うことでしょう。
欠けてくすんでいたお皿が修復され新品同様に………。
店主がカウンターから身を乗り出す。
よし!食い付いた!!
タライを三回擦ると水が消えて、もう一回水を貯める。
積まれていた、布巾を全てまとめて洗濯して物干し竿で乾燥。
染みだらけだった布巾が真っ白に。
ついでに店主のエプロンも剥ぎ取り洗濯しておいた。
もう一度水を入れ換えると、リュックから1枚の雑巾を取り出した。こいつの威力はギーナ達の武具で検証済みだ。
タライの水で雑巾を搾るとテーブルをひと拭き。
輝くように綺麗になる。
テーブル、椅子、壁に床とを拭きあげて、どうだ!と店主を見る。
ピカピカになった店内をポカンと口を開けて見回している。
「こいつは凄いな……これだけの事が出来るなら他所に行った方が……」
「お願いします!今日だけでも良いんです!宿代だけでも稼がせて下さい!!」
勢いよく頭を下げた。
もう他所では門前払いを食らいまくったのだ。
あまり大きくないこの街でここを逃したら、もうこの街で就職は期待出来ない。
ビクビクと答えを待つ俺の頭に大きな手が乗せられた。
「なんだ……お前、宿無しか?大した額は出せねぇが、うちでよけりゃあ、雇ってやるよ」
怖いと思った熊の様な顔が、にっかりと笑い、安堵と喜びで涙が出そうだった。
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