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君の世界の片隅で 第八話

「ソータ!マッカサバサンド3つ追加だ!」 マッカサバ、焼き魚にするのが通常らしいけど、前にテレビで見たサバサンド。 食べた無いけど、想像で作ってみたら、手軽で食べやすいと次々と注文が入る。もっと仕入れとけば良かったなぁ。 店長と開店前にマッカサバサンドを少し試食したけど、確かに脂ののったマッカサバは旨かった。 残念だけど、俺の賄い分は無くなりそうだ。 塩サバみたいにして白いご飯と食べたかったのに…。 「おい、聞いたか?魔王の城が消えたらしいぞ」 「えっ!?じゃあ魔王討伐の依頼はどうなるんだ?」 「討伐対象が消えたんじゃ、しょうがねぇだろ。無効だな」 魔王が現れて生活は何も変わらなかった。 魔王が消えたところで生活は何も変わらないのだろう。 結局魔王は何をしに現れたんだろうな。 「……奏汰」 「へ……?」 懐かしい声を聞いた気がして、調理の手を止めて顔を上げた。 常連でごった返す店内……特に変わったところは無い。 気のせい……か。 「ソータ、どうした?おっちゃんに見惚れちゃったか?」 「お前どの顔で!笑わせんなよ!!」 「お前の顔よりゃ、マシだろうがっ!!」 常連さんに愛想笑いで返すと、調理に気持ちを戻した。 「今日もご苦労さん、ソータが来てから随分客が増えたよ。昼も開けてくれって客もいるぐらいだ」 戸締まりする店長の後ろ姿を見ながら、冷たい風に体がブルリと振るえた。 「お?大丈夫か?もうすぐ冬が来るからなぁ……ほれ」 店長が、外套の裾を開いて待っている。 そこに入れと言う事か? 「店長……俺、子供じゃないよ……」 「似たようなもんだろう。細っこいから寒さに弱いんだよ。お前はもっと食え」 店長の大きな手が腰を抱いて体を密着させられる。 確かに店長の体は暖かかった。 「店長と比べたら皆、棒っきれだろ」 「ははははっ!!それもそうか!」 元冒険者だと言う店長の体はデカい。 それを見ると冒険者として旅に出なくて正解だったなと思う。 序盤で野たれ死んで終わっていたな。 「店長……雇ってくれてありがとう」 「なんだよ、改まって……お礼をいうのはこっちだよ。お前目当ての客も増えたしな」 「……男にモテてもうれしくない……」 「がははっ!!そう言ってやるな、気の良い連中だろ?」 冬の気配が近づく夜の道を店長と並んで家へと歩き出した。

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