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第43話

 ガドが「俺が取ってきてやる」と崖に手をかけたから、俺は一生懸命待ったをかけ、踏みとどまらせた。 「このままガドに全部任せると、俺はとんだ腰抜け野郎になってしまう。仲直りがしたいと息巻いて、人任せ……竜任せだなんて俺の矜持が号泣だ」 「矜持くらい好きに泣かせとけよォ~。だいたい魔王のために俺に頼みごとをするって時点で魔王のために行動してるぜィ? モノもちゃんと自分で見つけただろ? 俺はバッタと鬼ごっこしてただけだかんな」 「ダンゴムシともな。……そうは言っても、やはりアーライマを手に入れるために体を張るぐらいの気概がないと、俺の本気は伝わらない気がするんだ」  じっとガドを見つめて、覚悟を伝える。  アゼルを怒らせてまで強行したのに、できる限り頑張らないなんて、昨日のすれ違いがなにも意味を成さないじゃないか。  アーライマの花束を持って理由を告げ、誠心誠意謝る。  そしてアゼルへの気持ちを告げてこそ、初めて意味があった摩擦になるのだ。  友人がどうぞと差し出してくれた気持ちの花束を持って、俺は胸を張ってお返しがしたかったのだとは言えるもんか。  ガドは俺の真剣な表情を見て、うぐぐとたじろぐ。けれどびったんびったんと尻尾をくねらせ、フイと顔をそらしてしまった。 「じゃあお前の本気は俺が伝えておいてやる。それでいいだろ」 「喰らえ勇者抵抗、両手デコピン! 痛い」 「指折れてね?」 「折れてない……」  少し痛めた指にふーっふーっと息を吹きかける。くそう無駄にダメージを負ってしまった。相変わらず素の防御力が凄い。  だけど本気で馬鹿を言うガドには、勇者さんのデコピン抵抗術を御見舞すべきとみたのだ。  どうもファーストコンタクトでグロッキーになったからか、過保護が過ぎる。気持ちの証明には、心からの行動が付き物だろう。  俺はよし、と気合を入れる。  両方の崖に片方ずつ足をかけ、狭い崖の間を足を開く力で登ろうと、軽くジャンプした。 「あぅ……」  ガドはしょんぼりとした声を出して跳んだ俺に手を伸ばしたが、触れることはなかった。  心配してくれているのが伝わるから、俺も釣られてしょんぼりとしてくる。それでも行くのだ。 「シャルが落ちて死んだら、俺は誰になでてもらえばいいんだよゥ?」 「俺が落ちてきたら、ガドが受け止めてくれればいい。そしたら俺は死なないし、何回でも登れる」 「! それもそうかァ!」  しょんぼりする俺たちはあっさり折衷案を見つけ、俺は笑顔でよじよじと崖を登り始めた。  フフフ。一日一緒に冒険したハラヘリの絆、ここに見たり、だ。

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