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第102話(sideユリス)
──な、の、にッ!
久しぶりにお会いできる魔王様を迎えに猛ダッシュした僕を差し置いて、お姫様抱っこで現れたあののんびり勇者ッ!
なにあれ!? 事前に聞いてないよ!? 僕と魔王様のラブストーリーのはずでしょ!?
僕の魔族生は僕が主役。
故に当然僕主体で進むはずが、なんといつの間にやらお姫様襲来。
男なんだけど。しかも結構ちゃんと男なんだけど。そしてだいぶのほほん星人なんだけど。理解が追いつかないでしょオタンコナス。
兎にも角にも敵認定。
僕は魔王様の時と同じように、でも気持ちは全く別物で、一瞬にして「コイツ憎たらしい」と嫉妬の炎が燃え上がった。
でもでも、それはアイツが悪い! あんな砂漠の巣穴から顔だけ出してフコフコしてる時の、斑ネズミみたいな顔してッ!
アイツと話している時の魔王様は、なんだか変だ。
あんな顔、僕は見たことない。
付き合いの長いお父さんも、兄さんだって見たことがないと思う。
魔王様は、人が変わったように表情豊かになっていた。
些細なことで照れて頬を赤くし、アイツの一挙一投足に目まぐるしく表情を変える。
ちょっと距離が近づいただけでも、嬉しくてたまらないって声を上げるのだ。
アゼル、なんて愛称で呼ばせて、そうやって話しかけられるとすぐになんだなんだ、って全身の神経をアイツに向ける。
体調の悪そうなアイツを手ずから抱きしめたり、降ろす時に衝撃がないよう気遣ったり。
ただでさえ完成された美貌と体躯を持つ魔王様が、一段と着飾って褒められたがったのは……あの勇者だ。
僕がアイツのちょっと意味がわからなくてあんまりよく聞いてなかった兼職にキレると、チョップまで食らわせる入れ込みっぷり。
すぐにハッとしたよ。
こいつ、魔王様の愛人だッ!
僕の調べでは、とにかく興味が薄い魔王様は夜のあれそれもすこぶる淡白だ。
そんな愛人どころか妃も側室もなんにも取らず、一夜の関係すら持たないと名高い魔王様が、よもや人間の男を寵愛しているなんて……っ!
しかも! その当人がまっっっったく魔王様のツンツンデレデレな溺愛っぷりに気がついていないのが、より腹立たしい! あれが普通だと思ってんの、アイツ!
突然現れた恋敵。
それは日常茶飯事かのように魔王様とのんびりと接している、硬派っぽい真面目な顔して中身が天然臭い、ポヤポヤ男。
──コイツ、嫌いだ!
僕は明確な敵意を持って、この男と戦うことを決めたのだった。
◇ ◇ ◇
「………………足はやっ。そっか、アイツ勇者だったよね。ステータス高いっぽいし。ポテンシャルたっか……ムカぁ……」
そんなわけで敗戦したアイツが、少し赤い顔で眉を垂らしつつ、いつの間にか消えてしまったあと。
まさか僕の言うとおりに宿へ行ったのではないかと思って玄関の扉を開けると、そこにはもう誰もいなかった。
本当は、部屋を用意してたんだよ。
ムカついていじわるしちゃったんだよね。困ればいいと思ったんだ。
なのに怒るどころかむしろ感謝した挙句、最後にはほわほわと覚束無い様子で消えてしまったアイツ。
脳みそにお花畑でもできてんの?
魔王様の連れを僕がどうこうできるわけないでしょ、バカ。
どうしたって魔王様にとって価値があるのはアイツの言葉のほうなのに、アイツは僕に向き合って、真摯に答えた。
正々堂々、質疑応答。
タイマン習性の魔族みたい。
「変なの……すっごいやりにくいじゃん……」
フン、と鼻を鳴らしてみる。
だけどあんまりまっすぐなアイツの目を思い出すと、ツンと尖るのも上手くいかず、闇を見つめるばかり。
追いかけようとは思わない。
ただ、無視しようとも思えなかった。
僕は着いてくるのにいっぱいいっぱいなアイツに見せつけるため、これみよがしに魔王様と腕を組んだ。
視察中何度も挑発してみたり、蹴りを入れたり、足をかけてみたり。
他にもいろいろ。
怒らせてやり合うためにチマチマと、とにかく嫌がらせをしたんだ。
なのにアイツは全部困り顔で受け止めて、ただ一生懸命着いてくる。
もう本当に真面目に愚直に、魔王様の背中だけを見つめて、せっせと何時間も走ってついてきた。
本当はもっと嫌がらせをして置いていこうって思っていたのに、頑張る様子が敵ながらアッパレで、なんだろう。
結局僕は、走りきったバカに蹴りを入れることしかできなかったのだ。
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