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第176話
裏の意味がプロポーズだったことには驚いたが、全く困らないしとても嬉しい。
魔界で同性婚が問題なくアゼルがいいなら是非お願いしたいくらいだ。それくらい俺はアゼルを愛している。
気持ちに関しても先々薄れる気配がないし、後悔する気はない。
むしろ俺は気持ちが重いと言われて、こっぴどく振られたことがあった。アゼルくらいじゃないと釣り合わないだろう。
ふふふ、結婚か……結婚。
きっと最高に幸せになるぞ。
俺の頭は婚約したという事実に、ぶわわっ! と花が咲き誇っていた。
勢いで結果的にこうなったが、俺たちはお互いにちっとも返事を躊躇しなかった。それが心の証明だと思う。
魔族の王様と異界の人間。待ち受けるのは幸福だけではない。心配しなくても俺もアゼルも大人だから、いろいろな問題はちゃんとわかっているんだ。
そもそも付き合う前からわかった上で距離を詰めたし、告白した。諦められないからだ。離れないのなら結婚するのも秒読みで、最早当たり前だったな。うん。納得した。
「ん、ふふ。仕方ないことだ」
「お、俺、け、結婚、むぉぉぉ……ッ!」
プロポーズを受け入れたアゼルは返事を噛んだのが恥ずかしいのか、ハッとして俺の首元に顔を埋め始めた。
そんなアゼルも、浮かれた俺の目にはかわいいとしか映らない。アゼルの頭にスリスリと頬を擦り寄せる。熱い頭だ。
元々同棲しているようなものだが、これで晴れてアゼルは俺の嫁。
もうあれだ。新婚さんいらっしゃいに出るしかないんじゃないか? ないな。
そうそう、婚約したからには婚約指輪を買わないといけないぞ。
いずれ結婚式もしたい。
結婚したら結婚指輪を買って、新婚旅行も行きたいし、一緒に住む部屋を俺とアゼルのどっちの部屋にするか決めなければ。
最近はお菓子屋さんが城の中で噂になりいつもあるだけ捌けているので、蓄えも多少ある。ちゃんと収入三ヶ月分の指輪を買いにいこう。単価が安いのでなんとも言えないが。
ライゼンさんがたまにボーナスをくれるので実入りがいいんだ。
アゼルの仕事を手伝うついでにそのまま運んだりチェックして追加作ったりと、補佐をしているおかげだと思う。お金を使うこともないしな。
「っ? ん」
不意に首筋をペロペロと舐められ、脳内がお花畑となり咲き誇る俺は首元に埋まっていたアゼルにより現実に引き戻された。
拘束されていた手が離されて髪をなでられた。両手が自由になった俺は、そのままアゼルの頭と背中にゆるりと手を伸ばす。
「お前、ほん、本当にいいのかよ……? お、俺と結婚、する……?」
上目遣いに俺を伺うオニキス色の瞳。
その頬は桃色で美味しそうに見える。
「俺は……その、お前のこととなると、スッゲェ暴走しちまう。きっと今だっていろいろ間違って我慢させてんだ。格好悪いし……なにより魔族だぞ? 価値観が違う。お前に嫌われるような怖いこと……してるぜ?」
不安げな声で内容をぼかしながら、問題の輪郭だけを告げるアゼル。
奔放な魔族でも、番なら──結婚するなら、おいそれと相手を離さない。
愛情深いが所有欲が強いからだ。自分のモノにするならば契約同然。
離れたくなっても離せないぞ? と伺っているんだろう。けれど俺にとってそれは最も無駄な心配である。
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