188 / 192

SS① 交換条件、公私混同。

◆ツイッターに掲載した〝毎週末、長編作品から番外編を書く!〟というキャンペーンのSSでありますぞ。  アゼルが怒っているらしい。  正確には、これから怒るそうだ。 「なぜなら俺たち空軍の竜三匹が三日かけて巡視した遠征任務の報告書を、アリオが面白半分で紙飛行機にして」 「オルガが悪ノリして竜巻の中に混ぜて」 「ついでに竜まかれたキリユが、パックンチョ」 「美味しく食べてしまったわけだな」  そのとおり! と頷くのは、毎度おなじみお騒がせ軍団と化している空軍の信号機トリオだった。  三匹が言うには、魔王城の重要書類に使う紙には普通の火や水、汚れなんかではダメにならない不思議な刻印が打たれている。  しかし食べてしまうと、流石に無事では済まない。  となると上司である魔王──アゼルに、アリオとオルガはお仕置きをされ、キリユは腹を裂かれて報告書を取り出されることは目に見えているだろう。提出期限は今日である。  三匹は生きるために考えた。  結果、どうしたってアゼルに腹を裂かれることがない俺に報告を代理してほしい、とお願いすることにしたのが、事の経緯だ。 「このままじゃキリユが裂かれちまうッ!」 「俺とアリオだって裂かれちまう!」 「回復するってったって痛いぜっ!」  俺の周りを取り囲む三匹は、揃って俺にしがみつきながら頼むぜ! 頼むぜ! としきりにゆさゆさと俺を揺する。  こらこら。  あまり揺すると中身が出るぞ。 「大丈夫じゃないか? アゼルは優しい。そうサクッと裂かれたりしないと思う」 「いーや! 今回は全面的に俺たちが悪いからなッ!」 「魔王様は強くて気高くて部下も大事にしてくれるし話がわかる素晴らしい王だが、全面的に悪い場合はキッチリお灸も据える王なんだぜ!」 「つまり俺たちはきっちり裂かれるんだよ~っ!」 「「「八つ裂きはいやだーっ!」」」  泣くほどアゼルが怖いのか。  三匹は三方向から俺をひっしと抱きしめてオーイオイオイオイ、と泣きだした。  うーん……かわいそうだと思うけどな……。  元を正せば大事な書類で遊んでいたからだ。流石にそれを俺が口添えてアゼルに許してもらうのは、良くない気がする。  でもまあ、やってしまったものは仕方ない。 「アリオ、オルガ、キリユ」 「「「はぁい」」」 「ちゃんと反省しているのか?」 「「「反省しています」」」  腰に手をあてて厳しい目で見つめると、三匹は揃って宙に手を置き、〝反省のポーズ〟を取った。  これはかなり反省している。  反省がありありと伝わるぞ。  反省する三匹を不憫に思った俺は、三匹に代わってアゼルの執務室を訪ねることにした。   ◇ ◇ ◇ 「というわけで、報告書は三匹が責任をもって書き直しする。反省もしているようなので、提出期限を伸ばしてあげてほしいんだ」 「八つ裂きにしてやる」  アゼルの休憩時間を見計らって訪ね、説明すると、アゼルはジットリとしたしかめっ面でそう吐き捨てた。 「フンッ。ミスしただけじゃあ飽き足らず、保身のためにシャルに言わせるなんざ姑息な手を使いやがって……!」 「お使いくらい手間じゃないぞ?」 「そういう問題じゃねぇ!」  ガウ! と吠えるアゼル。  そう簡単にはいかないか。  アリオたちは俺なら大丈夫だと言っていたが、魔王様はそんなに甘くない。 「やっぱりダメか?」 「ダメだ。あの一帯はカクカクシカジカ、妙に思った民から巡視の嘆願があった。場所も場所だ。貧弱な民の微々たる不安でも仕事は仕事、サクッと駆逐すべきだぜ」 「つまり〝陸軍より速い空軍の竜を使ったのは、なる早で不安を取り除きたかったから〟だな」 「この呑気聖人が。いい感じの解釈をして和むんじゃねぇ。魔王として当然の行動だ!」 「うん。アゼルは素敵な魔王様」 「ぐふぉ……」  ついつい和んでしまうと、アゼルが目元を押さえて震えた。  呆れているのだろう。面目ない。  しかし、これはイけるんじゃないか?

ともだちにシェアしよう!