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4.死と生の交わり

 氷山と化した火山ルガンから、死の吹雪が駆け下りてくる。  全てを永遠に溶けない氷へ変貌させる死の風は、またひとつ村を飲み込み、長い氷河を形成していく。  氷河は生きている。  ゆっくり流れ、壁の中に抱いたモノを引き裂いていく。亡者の叫び声は吹雪に乗り、世に死の宣告をする。 「あぁ、美しい! 響く断末魔は悲哀を歌い上げるオーケストラのようだ」  金と銀、そして宝石を散りばめ、贅を尽くした貴族の服を蒼く輝かせながら闇の領主が氷の上を進む。  雪の結晶でできたコウモリや、ドレスをまとった骸骨達の進軍が続く。  氷の領土を広げるヴァンパイア:ストリーガは欠伸を零した。ヒューマンを支配するのは余りに簡単過ぎる。刺激が足りない。  だが――  どうやら今宵は違うようだ。 「ほう?」  吹雪の中で震えながら命乞いをするヒューマンが居た。その腕にはロープで縛られた銀の輝きがあった。 「おお! ソレは!」  ストリーガが歓喜の声を上げた。 「世界を地獄へ突き落とす愚かな女よ。そなたの望み、確かに叶えてやろう」  蒼い闇が翻った。  死の進軍は続くが、領主は高らかな笑い声と共に氷山の頂きへ風となって戻っていった。右腕に女、左腕に銀のオメガを抱いて――。  夜は最高だ。  命あるものが息を潜め、震えながら陽を待つのを睥睨するだけではつまらない。  だが、自らの子が陽の下で命の光を消して回る姿を想像するのは、この上なく楽しい。その願いが、今、叶う。  ストリーガは氷山にそびえ立つ城に舞い戻った。石畳の祭壇にオメガを下ろし、即時、銀の服を剥ぎ取った。 「さぁ、秘処を開き、聖なる子宮を解放しろ。我が家族を、忠実なる僕をその身で育み、産み、世に解き放つのだ!」  蒼い貴族の衣の下から、焼けただれた皮膚に覆われた巨大なグリズリーが現れた。  ヒューマンのように二本足で立つケダモノは、ヒューマンのオスがひとつしか持たない生殖器を七つ持っていた。各々が自らの意志で蠢くヘビの楔だ。 「さぁ、愛蜜に蕩けた秘処に我を受け入れよ。百、千、万の我が子を産み続けるのだ」  オメガの腕よりも太いヘビが鎌首をもたげた。ヘビは先を争い、オメガの柔らかな体に襲いかかる。 「ンアァァッ!!」  凍り付いた祭壇の上で、長い銀髪を振り乱しながらスターリィは最初の楔を受け入れた。  氷よりも冷たい楔が固く閉じた秘処にヒタリと吸い付いた、と感じた瞬間、ヌルリと入り込んできた。ヌチュッと卑猥な音が響き、ヘビの頭が埋没する。 「ハァンッ! ァッ!」  鱗に覆われたヘビの頭が柔らかな内壁を擦った。蜜を多く分泌させ、より深くまで楔を受け入れさせようとしている。  滅茶苦茶に身をくねらせ、蜜にまみれる蛇は牙を剥き出しにした。ダラダラと命のカケラを吐き出す。蒼い血と同じ色をしたソレは、オメガの体の奥に息づく、命を育む宮に向かって流れ始めた。 「アァァ! 私の、中に!」  腹を押さえながらスターリィが叫び声をあげた。冷たい楔に犯されているのに、灼熱のほとばしりを腹に感じる。呪われた命が宿ろうとしていた。 「喜べ。自らの子を率い、お前を見捨てたヒューマン達に『復讐をする機会』は近いぞ」  フハハハと高らかに笑うストリーガの二つ目の楔がスターリィを襲う。  うつ伏せになり、尻を高く掲げたオメガは歓喜に震え、悦楽に狂った嬌声を上げて死の愛を受け止めた。ヴァンパイアの愛撫は最凶の悦楽を与えてくれる。犯され、死よりも辛い目に遭わされているのに、体が喜ぶという残酷な現実。七つの楔は容赦なくオメガの肉体を貪り、堕落の宴に溺れさせていく。 「我が子孫に栄光あれ!」  今宵の闇は、命を生み出すかりそめの愛に満ちていた。

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