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21話/たいが

ムク犬をタンデムシートに座らせ、自分もシートに跨りエンジンをかける。エンジンの振動が体に響き渡ると、ムク犬が俺の腰にギュッとしがみついた。 腰に回ったちっこい手がぴるぴると震えているから、安心させる為に声をかける。 「しっかり掴まっていれば絶対落ちたりしないし心配いらないからね」 「う、うんっ!」 さらに強く抱きついて来たムク犬の高めの体温が、服越しに伝わってきて心地良い。 「じゃあセーフティドライブで行くね」 「了解です!では、しゅっぱつしんこー!」 ムク犬の掛け声と共に、俺達はようやく走りだした。 30分ほどで、目的地のホテルに無事到着。地下の駐車場に乗り入れてエンジンを切り、メットを脱いで後ろを振り返る。 俺の腰にギュッと回されたムク犬の手はそのまま、顔も背中にぴったりと張り付いている。 やっぱり怖かったんだな…。 「お疲れさま、初めてのタンデムはどうだった?」 そう声をかけると、ムク犬はゆっくりと顔を上げ 「…すっ…」 「ん?」 「…す…っっごく、楽しかったっ!!ありがとうっ!宍倉くんっ」 恐がって動けずにいるのかと思っていたら、意外なことにムク犬はキラっキラと瞳を耀かせ、満面の笑顔を見せながら俺に礼を言った。 「こんなに速く走るんだねっ!周りの景色とかびゅんっびゅんっ!って飛んで行っちゃうし凄く気持ち良かったあ〜。宍倉くんの言った通りだね」 興奮した様子で喋り続けるムク犬。左右に振りまくる尻尾が千切れそうだ。そして乗るときとは正反対に、勢いよくタンデムシートから飛び降りちまった。 だから、実はさっきのようにムク犬を抱きかかえて降ろしたかった俺が、内心ガッカリしていたってのはムク犬には言えない…… …よなぁ…。

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