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35話/たいが
二日酔いが心配だったが、どうやら大丈夫みたいだし、そろそろ「お願い」を実行に移させて貰おうかと、ムク犬の隣に腰掛ける。
俯くムク犬の頭に手を乗せ、髪の感触を楽しんでいると、ぷるぷると小刻みに震えているのが伝わってきた。不審に思い顔を覗き込むと、ムク犬がポロポロと涙を溢している。
ええええ…!?いきなりどうしたんだ?
「どっ、どうしたの?やっぱり頭が痛くなった?」
ギュッと目を瞑り涙を溢したまま、何度も頭を左右に振るムク犬。
「……ごめんなさい」
蚊の鳴くような声で、ポソリと謝る声がした。
「何を謝ってるの?寝ちゃった事なら気にしなくていいんだよ」
「…僕、お家に電話してお金持って来て貰います」
は…?金?一体、何の話だ?
「僕が寝ちゃったせいで、このお部屋を取ったんでしょう?僕のせいだからお金払います。迷惑かけてごめんなさい」
ムク犬は泣きながらそう言った。
ああ、俺またやっちまったんだな…。
今まで俺の周りにいたようなヤツらと、ムク犬は全然違うって事を俺はまだ分かってなかった。
平気で高級ブランド品を買わせようとしたり、高い飯でもホテルでも奢りが当たり前って感覚のヤツらとムク犬は違うんだ。無料チケットだから昼飯の誘いに乗ったムク犬だってのに、スイート取ってやったら喜ぶだろうと思ったなんて。
自分の浅はかさが恨めしい。
「大丈夫。河合の為にって訳じゃないんだから、気にしないで」
「でも、僕覚えてないけど何か宍倉くんにお願いをしたんでしょう?それってここに泊まりたいとか言っちゃったんじゃない…?」
…ん?今、ムク犬は何て言った…?まさか…。
「河合…“お願い”覚えてない…の?」
ショックで強張る俺を見たムク犬がまた泣き出す。
「や…やっぱり僕が我が儘言っちゃったんだね…」
「ちっ違う、違うんだよ!全然我が儘なんかじゃないんだ…。どっちかって言うと凄く嬉しかったし!」
マズイ…!泣き出したムク犬に慌てたせいで、余計な事を言っちまった。
「…嬉しい、お願い…?ってなあに?」
目には涙を溜め、きょとんとして聞いてくるムク犬。
くうっ、可愛いじゃねえか。…ああ、もうっ!言っちまっても…いい…か?
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