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43話/たいが

ムク犬がスキップしながらバスルームに入って行ったのを確認してから、士狼に向き合う。 「…なんで士狼がここにいるんだよ」 「社長が自分のホテルにいるのは当然の事だろ?」 「そうじゃなくて、なんで俺が来てるって分かったんだ」 「お前を見掛けたフロアマネージャーが支配人の笹塚に知らせたのさ。部屋を取ったと聞いて、女でも連れ込んだんじゃないかと思ったから、釘を刺しておこうかと思ってね」 「ち…っ、誰がここに女なんか連れ込こむかよ」 「まあその位の分別はあると思ってはいるが、お前の顔はスタッフでも上の者なら知ってる者も多い。行動には気を配るんだな、余計な噂を本家の耳に入れたくはないだろう?」 「今日のはイレギュラーだったんだよ…」 士狼の苦言にふてくされた態度を返してしまうが、実際妙な噂をジジイの耳に入れられたくはない。その為にチームだって辞めたし、高校では真面目な優等生を演じてるんだ。 「確かにずいぶん毛色の違った子を連れて来たな。中学生にしてはしっかりしていて礼儀正しいのは好感が持てるが、どういう知り合いなんだ?」 「…クラスメイトだよ、ああ見えても高二だ」 この場にムク犬がいなくて良かった…。 「…は?マジか?」 驚きのあまり士狼も素が出てやがる。コイツの上品な立ち居振る舞いは、育ちの良さと海外での生活で培ったものだが、コイツも高校までは派手に遊んでいて“Simha”はもともと士狼が作ったチームだった。 ガキの頃から士狼に懐いていたのもあって、チームのメンバーとも顔見知りだったし、俺が本家のしがらみに嫌気がさして、ヤンチャし始めた頃は色々と世話になった。そんな訳で実際、士狼には頭が上がらなかったりするんだが…。 「また随分と愛らしい高校生がいたもんだな」 「やらねえぞ…」 「ほう…?お気に入りってわけか」 ちっ、やっぱりコイツに見つかったのは失敗だった。俺と士狼は好みが似てる。俺が物珍しさからムク犬に興味を持ったように、士狼のヤツもムク犬の事が気に入ったのは、さっきのやり取りでも気付いていた。

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