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45話/たいが

「そんなに威嚇しなくても、子供に手を出す程不自由はしていないから安心しろ」 ゆったりとした仕草で、胸元から出した煙草に火を点けて、士狼が言う。 「それより学校生活はどうだ?叔父さん達の思惑に逆らって、無名の公立高校に通う事にしたって聞いた時は驚いたが」 「ちゃんと優等生をやってるさ。何か問題起こせば即、山奥の全寮制男子校にぶち込む気でいやがるんだし、そんな羽目になるくらいなら大人しくしてる方を選ぶ」 中学時代さんざん暴れ回ってた事がジジイにバレて、一族会議の結果山奥の学校にぶち込まれそうになった俺は、ジジイに直談判して三年間大人しく学業に励む事を条件に、好きな進路の選択と一人暮らしをする権利を手に入れた。一通りの遊びも悪さもやり終えた今は、普通の高校生活もそう悪いものじゃないし、真面目なクラス委員長とバスケ部のホープと言う役どころも、それなりに気に入っている。 二年になってからは、ムク犬の観察と言う楽しみも出来たしな。 そして今日、その楽しみは別のものに変化した。あの小さな仔犬に、俺が求めるものは癒しではなく恋情だということ。 ペットを可愛がるように、ムク犬を愛でてやりたいと思っていたはずの気持ちは、欲情を伴う恋に変貌を遂げた。だが相手がムク犬なだけに、今までの経験値なんて役に立ちそうもねえ。 士狼が言うように、ムク犬は見掛けどおりの子供だ。 そんなムク犬の気持ちを俺に向けるのは、簡単な事じゃないだろう。だけど欲しいと思った以上、絶対に諦めたりしない。 改めてムク犬を俺だけのものにすると、強く心に誓った――。 「ところで大雅、あの子風呂長過ぎやしないか?」 士狼の言葉に時計に目をやると、入ってからもう40分以上経っている。広い風呂だから、ゆっくり楽しんでるんだろうと思いもしたが、少し気になったのでバスルームに足を向ける。浴室の扉から、中に向かって声を掛けてみるが返事がない。 「河合?入るよ」 心配になって扉を開けるとそこには、浴槽の淵に上半身をうつ伏せにして倒れるムク犬の姿があった。 一体どうしたって言うんだ!?急いで浴槽から引き上げ、バスタオルにくるんで浴室から連れ出した。

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