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48話/たいが
「お待たせしちゃってごめんなさいねえ」
おっとりした喋り方で、お茶を出してくれるムク犬の母親は、ムク犬と良く似て小柄で平凡な容姿だけど、フンワリとした雰囲気の可愛らしい人だ。
昨日バスルームで逆上 せていたムク犬を風呂から上げ、冷やしてやりながら暫く部屋で休ませたけれど、ムク犬はそのまま熟睡してしまい、目覚める気配がなかった。なので士狼に車を出してもらい、ムク犬の携帯の着信履歴から姉に連絡をして、家まで送り届けた。
「本当に迷惑掛けてごめんなさいねえ。あの子ったらいつまでも子供で」
連絡を入れたら迎えに来ると言う母親に、士狼に父親の振りをして貰い俺の家で遊んでいるうちに寝てしまった事にした。ホテルのスイートルームで寝てるなんて知ったら、要らぬ心配を掛けてしまうだろうし、俺の心証も悪くなる。
「いいえ、河合くんはとても素直で優しいいい子ですよね。昨日は一緒に遊ぶ事が出来て本当に楽しかったです」
にっこりと優等生スマイルを浮かべてそう返すと、ムク犬母もにっこりと笑って、お茶のおかわりを勧めてくれた。
そうして待つ事10分。リビングの扉がそっと開いた。扉の向こうには制服を着たムク犬の姿。なぜか扉に張り付き、顔をちょっとだけ覗かせたまま、入って来ようとしないので声を掛ける。
「おはよう河合。連絡しないで来ちゃったけど、昨日はあのまま別れちゃったから…。心配で迎えに来たんだけど迷惑だったらごめんね」
俺がそう言うと、ムク犬は千切れそうなくらい首を左右に振った。
「謝るのは僕の方だよっ!迷惑いっぱい掛けちゃって本当にごめんなさい!」
リビングに入り、俺の目の前まで来て頭を下げるムク犬。
「別に迷惑なんて掛けられてないって。俺こそ食事のあと無理に家に誘って、俺とゲームを遣り過ぎたせいで、河合がくたびれて寝ちゃったんだからおあいこだよ、ね?」
そう言ってムク犬にウインクをする。
「あ…うん?」
「じゃあそろそろ出ようか遅刻しちゃうよ?」
いまいち分かっていないようだが、それ以上は何も言って来なかったので、出掛けるように促した。昨日の事は、学校までの道すがら話せばいい。
「ああ〜朝ごはん…」
「むーくんが早く起きないからでしょう?お握り作ったから、早く学校に行って授業の前に食べなさい。前みたいに、授業中きゅ〜きゅ〜お腹鳴らしちゃ駄目よ?」
「おっ、お母さんっ!宍倉くんの前で恥ずかしいこと言わないでっ」
弁当とラップにくるんだお握りを渡しながら言う、ムク犬母の言葉に思わず笑ってしまった。そう言えばいつだったかもそんな事があったな。その後の休み時間に、クラスの奴らがこぞってムク犬に菓子を与えまくってたっけ。
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