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52話/たいが

同じ路線電車でも、ちょっと遅いと凄い混みようだな。ムク犬が人混みに紛れて、あっという間に迷子になりかけてたので、あわてて肩を抱いて引寄せる。 毎朝こんな危なっかしい電車通学してるのか、コイツ?マジで心配になるぞ…。やっぱり俺と一緒の電車にするように、言った方がいいのかも知んねえな。 扉に腕を置いて、ムク犬が立てるだけのスペースを確保してやると、前に立つムク犬が礼を言ってきた。かなりの密着度のうえ、身長差による上目遣い。混雑による暑さのせいか、ほんのり赤らんだ頬。 …これはこれでナイスシチュエーションだな、やっぱり俺がムク犬に合わせるのが正解か。まるで腕の中に閉じ込めるように、人混みから守ってやってると俺の顎にムク犬のふわふわした髪の毛が触れてきて、昨日ベッドの中で抱き寄せたムク犬の小さな身体を思い出す。 柔らかくてすべすべで温かかった。ムク犬自身がコイツの好きなスイーツみたいに甘い匂いがして、凄く落ち着いていつの間にか俺まで一緒に眠ってしまっていた。 あのときはまだ、小さな動物を胸に抱いて安らいでいた。…なのに今、このポジションはけっこう…クルぜっ!柔らかい髪の毛と甘い匂いとムク犬の体温に、こんな場所で暴れちゃいけない暴れン坊が暴走しそうになってやがる。 だあ〜っ!数々の伝説を持つ金獅子ともあろう俺様が、また中坊モードになるなんてありえねえ〜っ!いかんいかん!何か話でもして気を紛らわそう。あ、そういやさっきの… 「ねえ、河合。さっき自分の事を犬だと思ってとか言っていたけど、なぜそんな事言ったの?」 一瞬キョトンとした後、気合いを入れた顔でこう言う。 「昨日、僕いっぱい宍倉くんに迷惑掛けちゃったでしょう?宍倉くんは優しいからそんな事ないって言ってくれるけど、やっぱりお世話になった分はちゃんと恩返ししなきゃって思うんだっ」 ムク犬らしい律儀さに頬が緩むが、それと犬扱いがどう繋がるんだ…? 「ちゃんと恩返しが終わったら、僕はお友達に立候補したいのっ!だからそれまではパトラッシュのように働くからねっ」 パトラッシュ…って、あのアニメに出てくる薄幸の犬か?あれって、確か最後は飼い主もろとも死ぬんじゃなかったか? お前は死ぬまでこき使われる気かっ!

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