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55話/むく
人混みに押されて、車内に戻されかけた僕の腕を、大きな手が掴んで引っ張り出してくれた。その大きな手が、くしゃくしゃになった髪の毛を優しく整えてくれる。
宍倉くんだとばかり思って、お礼を言おうとした僕の耳に聞こえてきたのは、宍倉くんとは別の明るい元気な声。
「おはよーっムクムク!」
「トーイくんっ」
「今日も遭難しかけてたなあ、大丈夫か?」
ニッコリと爽やかな笑顔で挨拶してきてくれたのは、九条桐亥 くんだった。よく一緒の電車になるトーイくんは、隣のクラスの同級生で、サッカー部期待のエースストライカーの爽やかイケメンくん。
トーイくんも背が高くて、スポーツマンらしい鍛えられた体つきの男らしい人で、秘かに憧れてる人の一人なんだよねっ。今日も爽やかな笑顔だなあ〜。
「助けてくれてありがとうトーイくん。おはようございます」
ペコリと頭を下げて、挨拶とお礼をしてると
「河合っ?河合どこだっ」
宍倉くんの焦ったような声が聞こえてきた。
「宍倉くんっ!」
声のする方を振り向くと、慌てたようにこっちに走って来る宍倉くんの姿。僕、また心配かけちゃったんだ。
「大丈夫だった?河合」
「うんっ!心配かけてごめんね。トーイくんが助けてくれたから、流されずにすんだの」
心配かけちゃったことを謝る、僕の横でトーイくんが
「ホントに毎朝毎朝危なっかしいよなあ、ムクは」
「そっ、そんなに毎朝じゃないもんっ!」
トーイくんの馬鹿馬鹿っ、そんなこと言ったらまた宍倉くんが心配しちゃうよっ。こっそり宍倉くんの様子を伺うと、案の定しかめっ面をしてる。
あう〜。
「あれ?A組の王子じゃんムクと仲良かったんだ?」
心配かけちゃったことに落ち込む僕に、トーイくんが聞いてくる。返事をしようとした僕の横で、宍倉くんが答えてくれた。
「うん、凄く仲良しだよ。はじめまして九条桐亥君だよね」
きゃ〜っスゴい仲良しだって!さっきポチから昇格したばかりなのに、そんな風に言ってくれるなんて嬉しいよ〜っ!
宍倉くんの返事に喜ぶ僕の前で、挨拶をする二人。
「九条でいいよ。王子はムクと同じクラスなんだっけ?」
「王子はよしてくれよ宍倉大雅だ、宜しく」
ニッコリと王子様スマイルの宍倉くんと、爽やかスマイルのトーイくんが、握手をしながら挨拶を交わす姿に、周りの女子高生やOLのお姉さんの視線が釘付けだ。
イケメン二人のパワーに、先を急ぐ朝のプラットホームだって言うのに、凄い衆目を集めてる。一人でもスゴいイケメンパワーは、二人になると倍じゃなくて2乗になるんだねえ。
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