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57話/とうい
朝の騒がしいプラットホームに立ち、俺はあの子の乗る電車を待っている。
高校二年生にはとても見えない小柄なあの子は、毎朝満員電車の中で押し潰されそうになっているから俺はそこからあの子をサルベージする。
あの子は俺が同じ電車で通っていて、たまたま乗り合わせて助けてるって信じてるみたいだ。でも実際はあの子が乗って来る電車を待って車両に乗り込み、埋もれかけてるあの子を外まで連れ出しているんだけどね。
あの子は毎朝、同じ電車の同じ車両に乗って来るから、今朝も定位置で到着を待つ。電車がホームに滑り込み、人がドッと溢れだすその中に愛しいあの子の姿を見つけた。
細い腕を掴んで外へと連れ出して、小っちゃい頭を見下ろすと、くしゃくしゃになった柔らかな栗色の髪の毛が目に入る。それを手で整えてやってると、小っちゃい顔が上がり大きな目が俺を映した。
小っちゃな体を大っきめの制服で包んだ、俺の愛しい愛しいわんこ。
「おはよーっムクムク!」
「トーイくんっ」
俺を見てにっこりと笑うムク。そのムクを見て笑顔になる俺。
「今日も遭難しかけてたなあ、大丈夫か?」
「助けてくれてありがとうトーイくん、おはようございます」
ペコリと頭を下げて挨拶とお礼をしてくるムクムク。ああ〜、朝から癒されるなあ…と和む俺の耳に焦った声が飛び込んで来た。
「河合っ?河合どこだっ」
しかもその声はムクの名前を呼んでいる。
「宍倉くんっ!」
宍倉…?聞き覚えのあるその名前は、確かムクのクラスのパーフェクト王子だ。
「大丈夫だった?河合」
「うんっ!心配かけてごめんね。トーイくんが助けてくれたから流されずにすんだの」
ムクが俺の名前を呼んだ事で、俺の存在に気付いたらしい王子は、睨 めつけるように俺を見てきた。
隣のクラスの有名人。顔良し、頭良し、運動神経良し、性格も良しなんて、あり得ないほどパーフェクトな奴。
そんな王子の俺を見る目には、明らかな敵意が見え隠れしている。穏やかな優等生との噂を裏切るその眼差しに、コイツもムクに惚れていると直感した。
そのあと、ムクには仲良く見えたらしい挨拶を装った攻防戦の末、何故かコイツと一緒に登校する羽目に…。
ご機嫌なムクを間に挟み、俺と王子は学校までの道のりをムクの頭の上で睨み合いながら歩いた。
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