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60話/むく
なんでか僕のお弁当を賭けて、二人がレースをするって話になっちゃったよ?なんで?僕のお弁当でいいなら、僕二人分作るのに…。
そう言ったら、それも却下されちゃった。あっ、そうか!何か賭けるものがあった方が、燃えるのかも知れない。少年マンガとかのライバル同士って、そんな感じだもんね!うんうんっ。
ようっし!それなら、うんと豪華なお弁当拵えちゃうぞ〜っ。
「分かったよ!じゃあ僕は二人の友情のために、美味しいお弁当を作るからねっ」
そう言ったら、宍倉くんとトーイくんの顔がひきつってたのは、なんでかなあ?
あれから学校に着いて、朝のHRで体育祭の話し合いがあったんだけど、僕が出たかった騎馬戦とか棒倒しとか組体操まで、クラスのみんなに反対された…。
組体操なんて全員参加の競技のはずなのに、なんで先生まで反対するのっ?百足リレーとか二人三脚もダメで僕が出れるのって、個人競技ばっかだよ…。もしかして僕って嫌われてるのかな?あうう〜。
ぺこんっ!
テーブルにへたりこむ僕の頭を、何かが叩く音がした。
「ムク犬っ!なにへたりこんでるの。準備が全然出来てないじゃないっ」
「ぶちょお…」
叩かれた頭を擦りながら顔を上げると、お玉を持った卯月部長が、仁王立ちして僕を睨んでいた。
そうでした。今は放課後で、僕は部活に来ていたんだった。
今日使う調理道具や食材を、調理台に用意しとかなきゃいけなかったのに、朝のショックから立ち直れずにいたせいで、すっかり忘れてた。
不機嫌な部長に、いつもなら慌てて謝って準備にかかるんだけど、今はその気力が出ないよう〜。
「…何かあったの?」
普段の部長ならまな板が飛んでくる所なのに、いつもと様子の違う僕に部長が優しく尋ねてくれる。
「ぶちょお…僕、クラスのみんなに嫌われてるのかなあ」
「は?なんで?」
朝のHRでの話をした僕に、卯月部長は事もなげに言った。
「ああなんだ。そんな事でへたってたの」
「そっ、そんなことって…、部長酷いようっ」
ちょっと泣きそう…。俺様女王様な部長だけど、僕たち部員にとっては優しいお兄ちゃんだって思っていたのに。
「あ〜もうっ!ウルウルするんじゃないよ。ムク犬が思ってるような理由で、反対されてる訳じゃないって事だよ」
んん?
「クラスの連中はムク犬が心配だから、危険な競技に出したがらなかっただけだよ。だから、そんなに落ち込む必要はないの」
…そうなの?僕がケガしたりしないようにって思って、みんなは反対してたの?確かに体育のときにも、よく転がって擦り剥いたりしてるけど、僕だって男の子だし、そんなの平気なのに…。
でも、クラスのみんなに心配かけちゃってるのは本当のことだから、じゃあみんなは僕のために反対してくれたんだね。
「そっか、僕クラスのみんなのこと誤解しちゃうトコだった。部長ありがとうっ」
すっかり落ち込みから立ち直った僕は、急いで準備を始めた。だから部長が、後ろでボソッと言ってた言葉は、僕の耳には届かなかったんだ。
「…心配の意味が違うって事には、気付いてないな。このお間抜けわんこは…」
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