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61話/たいが

朝のHRでの話し合いで、ムク犬が立候補した競技は、ことごとく身体が密着するものばかりだった。進行を任されてた俺は、権限をフルに使って全ての密着型競技の参加を却下した。 ムク犬は泣きそうな顔をしていたが、クラスの奴らを始め、担任さえも俺の決定に文句を言う奴はいなかったので、気持ちは同じだったんだろう。 それから一日中、ムク犬のぺっしょりと垂れ下がった耳と尻尾を見ているのは胸が痛んだが…。しかし、みすみす野獣の群れに可愛い子犬を投げ込む事を思えば、ここは心を鬼にしてでも耐えるしかねえ。 許せムク犬…。 放課後になり、元気のないまま部活に向かうムク犬を見送り、俺もバスケ部に向かった。部室に入ると鷹取がいて、俺を見るとニヤリと笑う。 「昨日は楽しめたか?」 あ〜、そうか。コイツは俺がナンパしてきた女と、どっかに行ったと思ってるんだったな。 「ああ、スゲー楽しかったぜ」 昨日の出来事を思い出すと、自然と口元が緩む。 「…そりゃ良かったな」 そんな俺の様子を鷹取は訝しんでいたが、気にせずにロッカーを開け着替え始める。スポーツバックから荷物を出してると、携帯が目に入った。 …そういや、ムク犬とアドレス交換してねえ。 教室に着くとすぐにムク犬は朝飯のお握りを必死で食ってたから、声を掛けるのが躊躇われた。下手に声を掛けると喉に詰まらせそうだったし、俺もHRの議題の準備があったしな。 その後は俺が却下したせいでぺっしょり落ち込む姿に罪悪感が疼き、言い出せずにいるうちに一日が終わってしまった。 九条みたいな奴の存在を知った以上、のんきに構えてるワケにもいかねえ。だから部活終わりに待ち合わせて、どこかに寄って帰る約束を取り付けるつもりでいたってのに。 「おい、行くぞ」 「ああ。なあ鷹取、調理部って何時まで部活やってんだ?」 部室を出る鷹取に続きながら聞いてみる。情報通なコイツは意外な事まで良く知ってるからな。 「調理部なら試食まで済ませて帰るから、俺達とそうかわらないくらいまでやってるぞ」 「そっかサンキュ」 さすが情報屋、頼りになるな。なんて、感心しながら部活が終わった後の事に思いを馳せていた俺の耳には、鷹取が呟いていた言葉は届かなかった。 「…ふうん、どうやら昨日は、アニマルセラピーでお楽しみだったみたいだな」

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