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63話/たいが

部活を終えた俺は、調理室に向かう事にした。急いで帰り支度を済ませて部室を出る俺に、頑張れよと鷹取が言って来た。何だか含みがある気がしたのは気のせいか…? 調理室のある特別棟に足を向けると、旨そうな匂いがしてきて部活後の空腹を刺激してくる。あ〜、マジ腹減ったなあ。 いつもなら鷹取とどこかに寄って、空腹を満たしている頃だから余計に堪える。調理室に近付くにつれて、旨そうな匂いはどんどん増していく。 ご飯の炊ける匂いと、味噌汁の匂い。調理室に着き廊下のガラス窓から中を覗くと、ちっこい奴らがちまちまと楽しそうに動いていた。 噂通り小動物ばかりだ。色違いの揃いのエプロンを着けて、出来上がった料理を調理台に運んでる。どうやら今から食べるみたいだな。そうなると片付けもあるし、まだ帰れそうにはねえなぁ。 あ〜、それにしても腹減った。ここで待つのは拷問だぜ。コンビニでなんか買って来て、食いながら時間潰すか…。 「宍倉くんどうしたの?」 「うわっ?」 いきなり開いた窓から、ムク犬が顔を出した。空腹に気を取られて、傍に来ていたのに気付けなかった。不覚…。 「あ〜っ、と…」 いきなりの事に、上手く言葉が出てこねえ。 「もしかしたら体育祭のお仕事?」 あ…?体育祭?なんでここで体育祭の話が出るんだ?しかも、何故か期待に満ちた目で俺を見上げてくるのが可愛いな、おい。その上、エプロン姿でとか余計に可愛いじゃねえかっ。 「お仕事あるならお手伝いするよ?ちょっと待っててねっ」 「あ、いや…」 そうじゃないと言おうとした俺を尻目に、調理室に戻って行くムク犬。そんなムク犬を追って調理室に視線向けると、調理部の部員たちが揃って俺を見ていた。 いきなりの訪問者に、驚きや不審の目を向けるちびっこ達。そのなかで明るい髪色をした美少年がキツい目付きで俺を見てきた。 「部長!今日は先に帰らせて貰ってもいいですか?今日の片付けは、明日みんなの分もやります」 「あ、いや違うんだよ河合仕事じゃないんだ」 俺の為に部活を上がろとするムク犬の言葉を聞いて止めに入る。どうやら体育祭の仕事だと勘違いしたようだ。 一緒に帰れるのは嬉しいが、ムク犬に負担を強いる訳にはいかねえ。

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