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65話/たいが
…この覚えのあるシチュエーション……。
立場は逆だが、まるで昨日の再現のようだった。
「……ぷっ!」
暫くの間沈黙が支配していたが、部長と呼ばれていた美少年が吹き出しやがった。
「…あ〜、すいません。部活の後で腹減ってて…」
ちっ!まったくこんなカッコ悪い所を見せる羽目になるとは…。
「ふふっ、昨日と反対だね宍倉くんっ」
恥ずかしさに耐える俺を気にする事なくムク犬が言う。
「そうだっ!部長っ。あのね僕、昨日宍倉くんにスッゴくお世話になったんですっ」
そんなムク犬が美少年に向かい、なにやら名案を思い付いたように話しだした。
「お世話?」
「はいっ!昨日、宍倉くんにホテルのビュフェランチ、奢って貰ったんですよう〜」
昨日の料理を思い出しているのか、頬に手を当ててウットリとするムク犬。
「だからお返しに、ご飯食べて行って?ねっ」
はっ?
「いいですか?部長」
「ムク犬が世話になったのなら、仕方ないね」
「わぁ〜っい!ありがとう部長!」
バンザイをして喜ぶムク犬。
「すぐに宍倉くんの分、用意するから入っておいでよ」
ニコニコと笑いながら手招きするムク犬と、さっさと調理室に戻り席を準備しだす美少年。いや腹は減りまくってるから、飯が食えるのは正直有り難い。
だが、このまま入っていいものか悩む。何故なら暗黙のルールとして、調理部に飯をたかるのは禁止されているからだ。
部活で腹を空かせた男子高校生にかかれば、調理部の料理など、一瞬で食い尽くされるだろう。過去に調理部から漂ってくる匂いに釣られて、あちこちの運動部が飯をたかりに来た為、調理部の部活動が出来なくなる事件があったらしい。
その後、調理部にたかりをした部は一週間の部活動停止処分という、お達しが生徒会から出て事態の収束をみた。だからどの部でも入部の時に、このルールを守るようにきつく言い渡される。
「宍倉くん、どうしたの?早くおいでよ」
いつまでも調理室に足を踏み入れない俺に、ムク犬が催促をする。
「ああ、もしかしてあのルールを気にしてる?大丈夫、僕らが招く分には問題ないから」
躊躇する俺に、美少年がそう言ってくれた。…いいのか?だが、腹はMAXに空いてるし、ムク犬の手料理だし(調理部のです)ムク犬のエプロン姿は可愛いし。
よし、じゃあ遠慮なくゴチになるとするか。
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