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66話/むく

躊躇いながら入って来た宍倉くんが、席に着いたところで部長が号令をかける。 「じゃあ食べようか」 「「「「はーいっ、いただきまーす!」」」」 「…いただきます」 いつも通りみんなで手を合わせる横で、一拍遅れて宍倉くんもいただきますを言う。 ホカホカと湯気を立てる出来たての料理たち。今日のテーマは春の旬の食材。筍の炊き込みご飯に、菜の花のお浸し、新じゃがのお味噌汁と鰆の幽餡焼き。 はあ〜美味しい〜っ。 「…旨い!」 料理を口に運んだ宍倉くんが、ポツリと感想をもらす。それを聞いた部のみんなの顔が、一斉にほころぶ。 「凄く美味しいです!高校生で、これだけの物が作れるなんて…」 宍倉くんは、本当に感心したように誉めながら、次々と料理を食べていく。 嬉しいなあ!料理を作るのは楽しいけど、食べて貰う楽しさはまた別のものだから。まして、こんなに美味しそうに食べて貰えるなんて、作り手としては最高の栄誉だよね! そんな宍倉くんの様子に、みんなの警戒心も緩んだみたいだ。宍倉くんの大きなお腹の音を聞いて、思わずご飯に誘っちゃったけど、みんなの了承をとらないまま、まったく面識のない宍倉くんを、同席させちゃったのは考えなしだったなあ。 人見知りの三葉くんや、警戒心の強いシマくんは戸惑っただろうに、僕に遠慮して言えなかったに違いない。…先輩としての配慮が足りないなあ僕。でも自分たちが作った料理を絶賛されて、シマくんも三葉くんも嬉しそうだ。良かった。 「いつもこんなにちゃんとした料理を作ってるんですか?」 「いや、食材費の問題もあるから、いつもって訳にはいかないな」 宍倉くんの質問に部長が答える。そうなんだよね。何しろ貧乏な調理部だから、こうしてきちんとした料理が出来るのは、週にせいぜい一度か二度なんだよね。 その分、基礎をしっかり身に付ける為に、卵焼きを綺麗に焼く練習とか、キャベツの千切りの練習とか、色々やってるんだ。 あ、千切りにしたキャベツは、ちゃんとコールスローにしたりしてるよ。野菜が大好きなシマくんが、マヨネーズかけて全部食べちゃうときもあるけど。 あとは週に二回、スイーツを作ってる。部員みんな甘いものが大好きだし、スイーツの方が材料も持ち寄り易いから。 「…あっ、そうだ!ねっ、みんな見て見てっ!」 スイーツで思い出した僕は、鞄から携帯を取ってきた。 「ムク犬!食事の途中で席を立たないっ!」 ぺこん! 礼儀作法にも厳しい部長にまた、お玉で叩かれた。 「ごめんなさい…」 ちょっと涙目になりながらも、昨日撮ったスイーツの写真をみんなに見せる。食事中に携帯を弄るのも行儀が悪いんだけど、僕の勢いに部長も目を瞑ってくれたみたい。

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