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68話/むく

「えへへ、僕だけ美味しい思いしちゃってごめんね」 偶然の成り行きとは言え、文字通り僕だけが美味しい思いをしちゃったのは事実なので、みんなに謝った。確かにあんな一流ホテル、大人になっても行く機会なんて、きっとそうそうない。宍倉くんのおかげで、本当にラッキーな体験しちゃったな。 体験って言えば、食事だけじゃなくて宿泊こそしなかったものの、あんな一流ホテルのスイートルームで休憩までしちゃったもんね。…って、昨日のことを思い出してたら、宍倉くんに抱きしめられて寝ていたことまで思い出しちゃった。 うきゃーっ!ダメダメ!それを思い出したら、また顔が赤くなっちゃう〜! あうあう…。 「ビュッフェのチケットでしたら、シークラに知り合いがいるので、また都合出来ると思いますよ?」 「「「「本当に!?」」」」 へっ? 「うわあっ!あんた良い奴だな!」 「…うれしい」 「いいのぉ?ありがとぉ!宍倉くん」 「ちょっと!全員分なんて言われてないでしょ、早とちりしないのっ」 部長にたしなめられて、上がりきってた皆のテンションが、見る見る下がっていく。 「ちゃんと皆さんの分ご用意出来ますよ?」 「「「「本当に!?」」」」 あ…、また上がった。 「ええ、お安いご用です」 そう言ってニッコリ微笑む宍倉くん。確かに総支配人の士狼さんに頼めば、チケットを貰うのは容易い事かも知れないけど。 「…いいの?宍倉くん」 「全然構わないよ?」 「…でも」 「その代わり、またこうして時々お呼ばれさせて貰えたら嬉しいな」 そう言ってまた微笑む宍倉くん。 「そんなに僕たちの料理を気に入ってくれたの?」 「うん、凄くね」 ふわわっ、嬉しい〜っ!宍倉くんの言葉に、みんなもとっても嬉しそうだ。 「じゃあ、ちゃんとした料理を作る日は教えるから来てねっ」 そう言ってから、周りを見るとみんなも頷いてくれている。 「自分たち以外の感想を聞けるのは有り難いしね」 部長も快諾。それを聞いたみんなは宍倉くんを囲んで、質問タイムに突入。 「なあなあ、シークラの料理ってどんなんだ?」 「…ケーキいっぱい食べても、大丈夫…ですか?」 「やっぱりマナーとかちゃんと覚えないと駄目かなぁ〜」 うわーっ、凄い!シマくんと三葉くんがすっかり懐いてるっ。まあ僕もビュッフェに釣られた口だけど、二人は僕と違って簡単に人に懐かないから。ビュッフェチケットもあるけど、宍倉くんの雰囲気がきっと二人の…ううん、部員みんなの警戒心を溶かしてるんだ。 やっぱり宍倉くんはすごいや!

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