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70話/むく
もうっ、取り入るとか賄賂とか餌付けとか、酷いことばっかり言って!宍倉くんが、そんなことしたりするわけないのに。ミツくんの馬鹿っ!
「むっく〜ん、そんなに睨んじゃやだやだ〜。ね〜、そいつがいいなら、俺もいいでしょ〜。ご飯食べさせて〜」
ミツくん、やっぱりご飯強請りに来たんだ。毎回、部長に手酷く追い返されてるのに、懲りないなあ。もう…。相変わらずのミツくんに呆れてると、調理室の外からまた違う声が聞こえてきた。
「おーい、梨兎。開けてくれーっ」
「…あ、コウ先輩の声…」
三葉くんがぱたぱたと走って行って、調理室の扉を開ける。
「おうっ、三葉。有り難う」
扉の外には、肩にお米の袋を担ぎ、もう片方の手には野菜が一杯入った袋を持ったコウ先輩が立っていた。
「梨兎、米持って来たぞ。あと、こっちはじいちゃんから預かって来た」
その大きな身体で、60kgもある米俵を軽々と担ぎ、沢山の野菜の入った袋を片手で持って現れたのは、部長の幼なじみで柔道部主将の牛島昴成 先輩だ。
コウ先輩のお祖父ちゃん家は農家で、お米を安く分けて貰ってる。そのうえコウ先輩が配達までしてくれてるのに、野菜までおまけしてくれるんだよね。
「ああコウ、いつも有り難う。竜成 じいちゃんにも宜しく伝えておいてね」
「…コウ先輩、ご飯食べて…行って下さい…」
コウ先輩が大好きな三葉くんが、先輩の服を掴んで引き留める。
「いいのか?梨兎」
「世話になった礼をするのは当然だよ。遠慮せずに食べてって」
「じゃあ、有り難たく招かれよう。正直、腹ペコだ」
「ずっるーい!牛島先輩まで〜っ!なんで、俺は駄目なのさぁ〜」
一層ごねるミツくん…。
「宍倉はムク犬が世話になったからだ、コウは調理部が世話になっている。だが、熊谷お前の世話になった覚えはない」
「じゃあ、俺もお世話する〜。言って言って、なんでもお手伝いするよ〜」
冷やかな部長の態度にも全然めげないミツくん。ハート強いなあ。
「はあ〜、もう今日だけだよ!次はないからね」
「やったぁ〜、りっくんありがとう〜」
「だから、りっくん言うな!」
おおっ!とうとう部長が折れたよ。ミツくんの初勝利だっ。
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