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82話/むく
ポーン!ポーン!ポーン!
空に打ち上げられた空砲の音が、体育祭の始まりを告げる。校長先生の長い話しがやっと終わり、生徒会長の桜木一馬先輩が壇上に姿を現した。
「本日は晴天に恵まれ、絶好の体育祭日和となりました」
カズ先輩の涼しげでよく通る声が、グラウンドに響き渡る。全校生徒の視線を浴びながら話しをするカズ先輩は、いつも通り凛として格好いい。
一通りの注意事項を述べた後に、カズ先輩が妙なことを付け加えた。
「尚、今回は幾つかの競技にサプライズを用意していますので、お楽しみに」
んん?サプライズ?…一体何のことだろう。
カズ先輩の言葉に、生徒達みんなが騒めいてる。そんな周囲の反応を楽しむように、ニッコリと笑ったカズ先輩が一際大きな声で開会を告げた。
「それでは、これより体育祭を開催致します!」
その宣言を皮切りに、次々と熱戦が繰り広げられ始めた。
僕も最初の参加競技の100m走では、一着を獲得!えへへ…っ、これでも足の速さにはちょっと自信があるんだよ?
自分の出番が来るまでは、自陣で応援しながら観戦する。
宍倉くんは、200m走で余裕の一着!負けじとトーイくんも、400m走でぶっちぎりの一着!
ミツくんは1500m走に出場して、やっぱり軽々と一着。
みんな凄いなぁ。
あっ、シマくんと三葉くんの二人三脚が始まった。ああ…っ!シマくん早く走り過ぎ!三葉くんがついて行けてないよう…。ああーっ、転んじゃったっ!
大丈夫!?ああ怪我はないみたい。良かった…、でも三葉くんが涙目だ。
周りの、ちび栗鼠 バンビちゃん頑張れコールに励まされて、なんとかゴールしたけど、ちび栗鼠って言われてシマくんが怒ってる。
『パン食い競走に出場する選手は、集合場所に集まって下さい。繰り返します…』
観戦に夢中になってた僕は、そのアナウンスを聞いて慌てて席を立つ。
この競技を終えれば、僕の午前中の出番はお終いだから、ゆっくり宍倉くん達のレースを観る事が出来る。
「むーくん!頑張って来いよ〜」
「あんまり張り切りすぎて転けるんじゃないぞ〜」
「その場でパン食べちゃ駄目だかんな〜」
集合場所に向かう僕に、チームの人達が声援を送ってくれるのは嬉しいんだけど、どうしてみんないっくんと同じような事を言ってくるんだろう…。
声援というか、小さい子を心配するような…。
確かに僕はちみっこいけど小学生じゃないんだけどなあ…、くすん。
集合場所に待機して競技の開始を待っていると、放送部のアナウンスがサプライズを告げてきた。
『おおっと?ここでサプライズ情報が飛び込んで参りました!次の競技、パン食い競走で使用されるパンは、購買部で大人気の一日10個限定の幻のあんパン、生クリームホイップあんあんパンだそうです』
う…うっそーーっ!?
購買部の幻の生クリームホイップあんあんパン!?
厳選された北海道産100%小豆を使った最高級あんこが、贅沢に通常の二倍入ったあの生クリームアンパンが食べられるの!?
や…やったーーっ!!パン食い競走に出場して良かったあ〜っ!
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