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83話/たいが

校長の長ったらしい話がようやく終わり、生徒会長の桜木が姿を現す。桜木は生徒会長に選ばれるだけあって、顔良し頭良しスタイル良し、性格も温厚でいいヤツだと評判の人気者だ。 実際、今も壇上の桜木に熱い視線を送るヤツらがチラホラいる。そういやコイツも、ムク犬にやたらと構っているって話だったな…。 そんな桜木が、サプライズを仕込んでいると発言した。なんだそりゃ?そんな予定は全然聞いてないぞ?生徒会の独断か?他の生徒も桜木の言葉に騒ついている。そんな周囲の様子を気にする事なく、開会宣言がなされ体育祭の幕は開いた。 午前中は個人競技を中心に進行して行く。 最初の競技は100m走。出場したムク犬は、コロコロと飛ぶように走り抜けてく。本当に仔犬みてえだな。学校のマスコットのムク犬の走りに、生徒達の声援が集まるなか、ムク犬は見事に一着を獲った。 俺も負けじと200m走で一着を獲るが、九条、熊谷も400mと1500mでそれぞれ一着。優劣は着かないまま順調に競技は進行していったが、桜木が言っていたサプライズは、これと言って行われる気配はない。 一体、サプライズって何なんだ?と思っていると、パン食い競争のあんパンが購買部の人気商品だと、アナウンスで告げられた。 はあっ?あんパンがサプライズ!?なんだそりゃ…。そんなんがサプライズとかって、何考えてんだよ生徒会…。 気の抜けるようなサプライズの内容に心の中で毒づいていたが、ふと待機場所にいるムク犬を見るとそこには千切れんばかりに尻尾を振り、喜ぶムク犬がいた。 生クリームホイップあんあんパンっ!あんあんパーン!と両手を挙げて喜んでいる。そんなに大声で叫ぶほど嬉しいのか!? 周りはそんなムク犬の喜ぶ様子を微笑ましく見守っていたが、ムク犬の傍に近寄った人影がパッカーン!とお玉で頭を叩いた。 調教師卯月の登場に、周りでは笑いが起こる。あまりのムク犬のはしゃぎように、躾に飛んで来たようだ。 涙目で頭を擦りながら、卯月に叱られるムク犬。女王様ほどほどにしてやれよ〜と、声が飛ぶ。そんな二人のやり取りを、役員席に座る桜木が、優しい眼差しで微笑みながら見ていた。 ……このデラックスあんパンは、もしや桜木がムク犬の為に用意したものなのか?そう言えば、調理部は生徒会からの保護が行き届いているともっぱらの噂だが、それはやはり桜木がムク犬を狙っているからなのか…? 新たなライバルの出現に気を揉む俺を余所に、パン食い競争が始まった。

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