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84話/むく

ううう…、幻のあんあんパンに興奮して、ついはしゃぎ過ぎたのは反省しなきゃだけど、部長の愛の鞭ならぬ愛のお玉が痛いよう…。どんなときでもお玉を離さない部長、凄いなあ。 自分の陣地に戻る部長の後ろ姿を見ながら、そんなことを考えていたらレースが始まった。 『さあ、本日最初のサプライズが登場しましたパン食い競争。可愛いらしいハプニングもありましたが、何しろ滅多に入手出来ない幻と言われる、人気商品の生クリームホイップあんあんパンですから、河合選手でなくともテンションは上がろうと言うものでしょう』 あれ?なんか僕の名前が出てるよ?さっきのやり取りそんなに目立っちゃったのかな。うわわっ、恥ずかしい〜っ。 『一日10個限定のあんパンですが、キムラパン店のご協力により、今日の分を提供して頂けたとの事です。有難いですね』 そうなんだあ〜。おかげで憧れのあんあんパンが食べられる!うふふ〜、嬉しいなあ。ようっし!頑張ってパンも一着もゲットするぞーっ そう気合いを入れていると、僕の順番が回って来た。スタート地点に並び合図を待つ。 さあっ!憧れのあんあんパンに向かって、一直線に走るんだっ! 『位置に着いて、用意…』 パーン!! 競技用ピストルがスタートの合図を告げ、僕は走り出した。 自慢の足を生かして、一番最初にパンの下に到着した僕は、紐に吊るされぶら下がる愛しのあんあんパンに狙いを定め、思い切り飛び上がった。 さあ、パクっとくわえてゴールに向かうぞっ。 ぴょーっん!!と、飛び上がりあんあんパンをくわえようとした…、んだけど。 …と、届かないよう…。 パンが吊り下げられているのは、普通の背の人なら飛び上がれば十分届く高さなんだけど、僕にとってはかなり飛び上がらないと、難しい高さだった。 お口を開けて、一生懸命ぴょんぴょん飛び上がるけど、全然あんあんパンに擦りもしないよ〜。 …あうう…。 後ろを見ると、他の選手達がここまで到着しようとしていた。このままじゃ、あんあんパンが取れないばかりか、レースにも負けてしまう。 頑張れ頑張るんだ僕っ! かえるさんをおもいだせ!あんな風に飛び上がるんだっ! ええーいっ!! パクッ! 力の限り飛び上がった僕の口は、あんあんパンの袋を掴んだ。 やっ、やったー!! 愛しのあんあんパーン!…じゃなくって!これでゴールに向かうだけだ。 僕は口にくわえたあんあんパンを落とさないように、全力で走り抜けた。

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