85 / 139
84話/むく
ううう…、幻のあんあんパンに興奮して、ついはしゃぎ過ぎたのは反省しなきゃだけど、部長の愛の鞭ならぬ愛のお玉が痛いよう…。どんなときでもお玉を離さない部長、凄いなあ。
自分の陣地に戻る部長の後ろ姿を見ながら、そんなことを考えていたらレースが始まった。
『さあ、本日最初のサプライズが登場しましたパン食い競争。可愛いらしいハプニングもありましたが、何しろ滅多に入手出来ない幻と言われる、人気商品の生クリームホイップあんあんパンですから、河合選手でなくともテンションは上がろうと言うものでしょう』
あれ?なんか僕の名前が出てるよ?さっきのやり取りそんなに目立っちゃったのかな。うわわっ、恥ずかしい〜っ。
『一日10個限定のあんパンですが、キムラパン店のご協力により、今日の分を提供して頂けたとの事です。有難いですね』
そうなんだあ〜。おかげで憧れのあんあんパンが食べられる!うふふ〜、嬉しいなあ。ようっし!頑張ってパンも一着もゲットするぞーっ
そう気合いを入れていると、僕の順番が回って来た。スタート地点に並び合図を待つ。
さあっ!憧れのあんあんパンに向かって、一直線に走るんだっ!
『位置に着いて、用意…』
パーン!!
競技用ピストルがスタートの合図を告げ、僕は走り出した。
自慢の足を生かして、一番最初にパンの下に到着した僕は、紐に吊るされぶら下がる愛しのあんあんパンに狙いを定め、思い切り飛び上がった。
さあ、パクっとくわえてゴールに向かうぞっ。
ぴょーっん!!と、飛び上がりあんあんパンをくわえようとした…、んだけど。
…と、届かないよう…。
パンが吊り下げられているのは、普通の背の人なら飛び上がれば十分届く高さなんだけど、僕にとってはかなり飛び上がらないと、難しい高さだった。
お口を開けて、一生懸命ぴょんぴょん飛び上がるけど、全然あんあんパンに擦りもしないよ〜。
…あうう…。
後ろを見ると、他の選手達がここまで到着しようとしていた。このままじゃ、あんあんパンが取れないばかりか、レースにも負けてしまう。
頑張れ頑張るんだ僕っ!
かえるさんをおもいだせ!あんな風に飛び上がるんだっ!
ええーいっ!!
パクッ!
力の限り飛び上がった僕の口は、あんあんパンの袋を掴んだ。
やっ、やったー!!
愛しのあんあんパーン!…じゃなくって!これでゴールに向かうだけだ。
僕は口にくわえたあんあんパンを落とさないように、全力で走り抜けた。
ともだちにシェアしよう!