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87話/たいが

ムク犬がくれた大切なあんパンを食べながら二人で観戦し、腹も気持ちも満たされた俺は、どうにかダメージから立ち直る事が出来た。 そうしているうちに午前の部の最終競技、ムク犬の弁当を賭けた大勝負、クラブ対抗レースの出番がやってきた。 自陣を離れ集合場所に向かう俺に、ムク犬が笑顔でエールを贈ってくれる。 「宍倉くん!僕、力いっぱい応援するからねっ!頑張って!」 ムク犬からのあんパンに、笑顔での声援。これで力を出せなきゃ男が廃るってもんだ。 「ああ、必ず一着を獲って見せるよ。弁当楽しみにしてる」 俺に向かって両手を振り、送り出してくれるムク犬。その姿に笑顔で手を振り返し、俺は決戦に挑むべく待機場所へと向った。 各クラブの精鋭達が集まるその場所には、当然九条と熊谷の姿もある。二人の傍まで来ると、話し声が聞こえてきた。 「ふふふ〜、やっとレースが始まるね〜。むっくんのお弁当どんなのかな〜」 二人の話題は当然、ムク犬の弁当の事だ。 「さあ。だがムクの事だから朝早くから一生懸命作ったんだろうよ」 ストレッチしながら熊谷に答える九条が、ムク犬の事を解ったように言う。それが当たっている事が、癪に障る。 「俺がリクエストした筑前煮とお稲荷さん作ってくれたかなぁ〜。あ〜楽しみ〜」 「ムクは優しいからな。きっと全員の好物を作って来たんじゃねえか?」 あの弁当箱のでかさとムク犬の性格からして、九条の言う通りなんだろう。 「そっかぁ〜、むっくんらしいよねぇ。でもさ〜、仮に九条の好物も作ってもらえてたとしても、食べられるのは勝った奴だけだよね〜」 「ああ、ムクがてめえの為に作った料理があったとしても、俺がてめえの前で全部食ってやるよ」 「それはこっちの台詞〜。ねぇ王子?」 二人の台詞に心の中で頷いてると、熊谷が俺の方を振り返り、鋭い視線を向けながらそう言って来た。 「ふふふ〜、可愛いむっくんが作ってくれた、大事な大事なお弁当が掛かってるんだもんね〜。手加減なんてしないからねぇ」 挑発するように言葉を続ける熊谷と、無言で俺を睨み付けて来る九条。 九条は、ムク犬との朝の登校を邪魔されているせいもあって、俺に相当敵意を募らせているようだ。だが俺も本気でムク犬を落とすと決めた以上、一歩も引く気はねぇよ。 「手加減出来るほど余裕があればいいがな?悪いが俺も本気で行かせて貰うぜ」 普段の優等生然とした笑顔をしまい込み、俺は奴らに向かってそう宣言する。それを見た奴らは一瞬驚いた顔を見せたが、すぐにニヤリと笑った。 「…それが王子さまの本性ってワケか」 「やっぱり猫被ってたんだぁ〜。じゃあ、ますます負けてなんてやれないよねぇ」

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